本人不在の解約の難しさ
法務部K 長田さんを看取られ、部屋の片付けも担当した親族が、手元で処理できる契約は解約していったんです。でも、銀行と証券会社の口座の解約、それに、クレジットカード、あとは、意外だったのは、長田さんが好きだった伊勢丹の、毎月積み立てをする「友の会」も、親族でも解約できませんでした。
そのほか、口座から細々と引き落とされている契約を、本人無しに解約するのは大変な作業でした。亡くなると口座が凍結されますから、引き落とせなくて督促状が来ます。これが来ればすぐに解約できる。介護保険料や介護ベッド代も、未払いの通知書がきたのを、従姉妹が見つけました。
それ以外の契約は、通帳から毎月引き落とされている金額をひとつひとつ、AIに入力して調べました。「ビックカメラから毎月972円引き落とされているのは、何の料金でしょうか」という具合です。督促が来ないからって未払いのままというのも問題だし、社会に迷惑を掛けていることになりますから。
――これは、何らかの方法で避けられない作業なのでしょうか?
藤原 まあ避けられないですよね。有効な遺言書があっても、発生する作業です。
法務部K でも、市販されている、いわゆる「エンディングノート」を見ると、そういった契約の一覧を書く欄がありますよね。だから、従姉妹に「契約の一覧が整理されていたりしませんか」って聞いたんですが、「そういうのは全然ないです」って。従姉妹も長田さんの介護をするようになったのは亡くなる数カ月前から。長田さんの日常生活までは分からない。
藤原 結局、自分が何にお金を使っていて、死後に何をしなきゃいけないかは、本人しか分からない。特に、年1回課金されるようなパソコン関係の契約なんて、処理しようがない。ですから、元気なうちに一覧を作っておくだけで、残された人の苦労はだいぶ違います。
※編集部注(2026年5月1日) 2026年4月3日、遺言についてパソコンなどでの制作を容認する民法改正法案が閣議決定されました。改正案が成立すれば、2028年度中にも新制度の運用が始まる見通しです。
※長田昭二氏の本記事全文(4500字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています。全文では、下記の内容についても触れられています。
・お金の処理はいつ終わったのか?
・ほかに、生前にできたことは何だったのか?
■連載「僕の前立腺がんレポート」
第1回 医療ジャーナリストのがん闘病記
第2回 がん転移を告知されて一番大変なのは「誰に伝え、誰に隠すか」だった
第3回 抗がん剤を「休薬」したら筆者の身体に何が起きたか?
第4回 “がん抑制遺伝子”が欠損したレアケースと判明…治験を受け入れるべきなのか
第5回 抗がん剤は「演奏会が終るまで待って」骨に多発転移しても担当医に懇願した理由
第6回 ホルモン治療の副作用で変化した「腋毛・乳房・陰部」のリアル
第7回 いよいよ始まった抗がん剤治療の「想定外の驚き」
第8回 痛くも熱くもない放射線治療のリアル
第9回 手術、抗がん剤、放射線治療で年間医療費114万2725円!
第10回 「薬が効かなくなってきたようです」その結果は僕を想像以上に落胆させた
第11回 抗がん剤で失っていく“顔の毛”をどう補うか
第12回 「僕にとって最後の薬」抗がん剤カバジタキセルが品不足!
第13回 がん患者の“だるさ”は、なぜ他人に伝わらないか?
第14回 がん細胞を“敵”として駆逐するか、“共存”を目指すべきか?
第15回 「在宅緩和ケア」取材で“深く安堵”した理由
第16回 めまい発作中も「余命半年でやりたいこと」をリストアップしたら楽しくなった
第17回 「ただのかぜ」と戦う体力が残っていない僕は「遺言」の準備をはじめた
第18回 「余命半年」の宣告を受けた日、不思議なくらい精神状態は落ち着いていた
第19回 余命宣告後に振り込まれた大金900万…生前給付金「リビングニーズ」とは何か?
第20回 息切れで呼吸困難になりかける急峻な斜面に、僕の入る「文學者の墓」はあった
第21回 がん細胞は正月も手を緩めず、腫瘍マーカーは上昇し続けた
第22回 主治医が勧める骨転移治療“ラジウム223”は断ることにした
第23回 在宅診療してくれる「第二の主治医」を考えるときが来た
第24回 “余命半年”を使い切った僕は、足の痛みで杖が必要になった
第25回 貧血で階段が上れない…がん末期の体調不良は突然やって来た
(訃報) 「僕の前立腺がんレポート」連載中の長田昭二さんが逝去されました
番外編第1回 どうやって「念願の自宅で最期」を迎えることができたのか〈親族インタビュー〉
番外編第2回 「毎月外来で“ネタ探し”している雰囲気もありました」闘病記を書かれる主治医の気持ち〈主治医インタビュー〉
番外編第3回 “怖くない”前立腺がんで亡くなった長田さんの「生死を分けたもの」は何か?〈主治医インタビュー〉
番外編第4回 遺言を2年間先延ばしにして起きたこと〈弁護士インタビュー〉
番外編第5回 死後の手続きはこんなに大変〈弁護士インタビュー〉 今回はこちら

