「僕の前立腺がんレポート」を連載中だった長田昭二さんが、6月14日に逝去された。「一人の人間ががんになって、命を落としていく過程を知ってほしい」と語っていた長田さんの遺志を受け、文藝春秋編集部ではご親族の了承を得て、闘病生活にかかわった方々のインタビューを連載番外編としてお届けします。
番外編第2回、第3回では、主治医だった東海大学医学部腎泌尿器科学領域主任教授の小路直(すなお)医師に、長田さんの闘病生活について聞きました。前半となる今回は、前立腺がん治療を時系列で振り返ります。
■連載「僕の前立腺がんレポート」
第24回 “余命半年”を使い切った僕は、足の痛みで杖が必要になった
第25回 貧血で階段が上れない…がん末期の体調不良は突然やって来た
(訃報) 「僕の前立腺がんレポート」連載中の長田昭二さんが逝去されました
番外編第1回 どうやって「念願の自宅で最期」を迎えることができたのか〈親族インタビュー〉
番外編第2回 今回はこちら

長田さんの主治医になった経緯
――長田さんは2023年6月から「文藝春秋 電子版」(現・文藝春秋PLUS)で、月1の連載「僕の前立腺がんレポート」をスタートさせました。闘病記を毎月書くと言われたとき、どのように受け止めましたか?
小路 率直に言うと、ちょっとまいったなと思いました(笑)。
――やはり、そうですよね(笑)。
小路 病状からいって「治っていく」というより、「病気が進んでいく」状況を書くことになるので、「これは大変なことに巻き込まれてしまったな」と。ただ、長田さんには、それまでも新たな治療法を導入した際にメディアで紹介していただいたり、お世話になっていたので、「ここは思い切って、一緒に船に乗ろう」と覚悟しました。
書き始めてからは、毎月、外来に来るたびにネタ探しもしている雰囲気がありました。「それは○○ということですか?」とか突っ込んで聞かれると、「これは今月書くな」と(笑)。
いろいろな心配はしましたが、連載第1回の文章を読んだら、ユーモアもあって、他の患者さんに知ってほしいこともたくさん書かれていた。「これだったら私も気張らずにいける」と思いました。その後は、読んで勇気をもらっている患者さんや家族がいることも分かって、「一緒にやっていこう」という思いでした。
――そもそも、先生が長田さんの主治医になったのはいつ頃で、どんな経緯からだったのでしょうか?
小路 2016年末ごろ、前立腺がんの「ターゲット生検」(MRI画像で目標を定めて針を刺し、組織を採取する検査方法)について、私がメディアの方に紹介するセミナーで知り合いました。全体の説明が終わった後に、主催者の方から「長田さんという方が1対1で話したいそうです」と声を掛けられて、個室でお話をしました。夕刊フジの長田さんの連載「ブラックジャックを探せ」に、私の記事を載せたいという話でした。
ですから、はじめの出会いはあくまで取材でした。ただ、その時すでに、「実は、自分もPSAが高いんですよ」と話されていましたね。
《編集部注:長田さんは2016年8月、炎天下でジョギングした後、血尿が出たことをきっかけに内科医院を受診。検査の結果、血尿は脱水症によるものだったが、PSA(前立腺がんの腫瘍マーカー)が正常値内ではあるものの高い値が出た。その後、3カ月に1度検査を受けたが、微増が続いていた。
〈かかりつけ医は泌尿器科の受診を勧めるが、僕は躊躇していた。理由は2つある。1つはがんが見つかると、そこから先の生活がとても面倒になることが予想されること。もう1つは検査そのものが苦痛と羞恥を伴う――という思い込みによるものだった。より詳細な検査を勧めるかかりつけ医に、「仕事の忙しさ」を理由に、泌尿器科の受診を後回しにし続けていたのだ。〉「僕の前立腺がんレポート」第1回》

――セミナーに参加した頃は、かかりつけ医に泌尿器科の受診を勧められた頃ですね。
小路 私のセミナーに取材に来たのも、自分ごととして治療法に興味があったのかもしれませんね。でも、当時勤務していた東京・八王子の東海大学医学部付属八王子病院に来院したのは、出会ってしばらく経った2018年のことです。「自分もちょっと診てほしい」「MRIを撮りたいんです」と話されていました。
――病気はどのような段階だったのでしょうか?
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