なぜカットマンは少ないのか?
打たれても打たれても競技エリア一杯に動き回って返し続け、相手が疲れて打ちあぐんだ瞬間に前に出てきて一発で仕留める。1つのラリーの中で見せる鮮やかな逆転劇だ。大喜びする観客と得点以上のダメージを受ける相手。
このように「カットマン」とは、卓球競技における回転の威力を体現するとともに、もっともドラマチックなラリーを見せる卓球競技の華といってもよい存在なのである。
にもかかわらず現代卓球では、カットマンは希少な存在となっている。世界の卓球が攻撃主流になって以来、カットマンのシングルスの世界チャンピオンは、男子は1953年、女子は1981年が最後だ。
カットマンが少ないのはもちろん不利だからだ。それは結局、攻撃選手の武器である速球が、人間の身体的限界である反応時間を突き破るという絶対的なものであるのに対して、カットマンの武器である回転の変化は、訓練によって対応できる相対的なものでしかないからだ。
もし世界にカットマンが1人しかいなかったら?
しかし、カットマンが消滅することはない。希少であることによる価値が必ず残るからだ。カットマンの回転に対応するためにはカットマンと練習しなくてはならない。だからカットマンが少なくなるほど皮肉なことにその競争力は上がる。極端な話、世界にカットマンが1人しかいなかったら、その選手は世界チャンピオンになるだろう。カットマンと一度も練習しないでカットマンに勝つことは不可能だからだ。
「Tリーグ」の選手54人中、3人だけいるカットマンの存在とその世界ランク(過去最高位 村松雄斗:21位、石垣優香:19位、徐孝元:8位)は、カットマンのプレースタイル本来が持つ競争力と、希少価値による競争力とのバランスの結果なのだ。
そのようなことを思いながらこの3選手の活躍を見るのもまた「Tリーグ」の楽しみ方のひとつなのである。