生き抜いていく私

戦後80年 特別寄稿 あの戦争と私

五木 寛之 作家
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一日も早く軍隊に行きたかった。全国民的な高揚感の中で、国民ひとりひとりが戦争をしていた

〽僕は軍人大好きよ
 今に大きくなったなら
 勲章つけて 剣下げて
 お馬に乗って ハイドウドウ
 (『僕は軍人大好きよ』詞:水谷まさる 曲:小山作之助)


 国民があれほど歌を歌った時代もないだろう。小学校へは腕を組み、合唱しながら通っていた。赤ん坊の子守唄まで軍歌だった。

 戦争が始まった昭和12(1937)年、私は5歳だった。学校教師だった父は新天地を植民地に求めた。母は郷里である福岡県で出産し、赤ん坊だった私を抱えて父の待つ朝鮮半島へ渡った。父は出世の階段を身を削るようにして一段ずつ上り、私たちは地方都市や寒村を経て、大都会のソウルに移り住んだ。

 満州事変が起きたのは昭和6(1931)年。私は満州国が建国された昭和7(1932)年の生まれだから、戦争の時代に生まれたといっていい。しかし外地では、戦争が始まってもしばらく「平和」が続いていた。

五木寛之氏 ©文藝春秋

 幼い頃の最初の鮮やかな記憶は、ソウルの街中が沸き返った提灯行列の風景だ。花火が上がり、歓声が渦巻く。「バンザイ! バンザイ!」。花電車が走り、旗が上がり、行列は夜通し絶えなかった。それが「漢口陥落」を祝うものだと知ったのは、大人になってからだ。

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source : 文藝春秋 2025年8月号

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