藤沢秀行 「バカ、破門だ」

高尾 紳路 囲碁棋士
エンタメ 芸能 教育

「棋聖」戦6連覇など輝かしい成績を残す一方、酒、女、ギャンブル、奔放な言動で知られた囲碁棋士の藤沢秀行(ふじさわしゅうこう)(1925―2009)。その薫陶を受け、史上6人目の名人・本因坊となるなど、「平成四天王」の一角を占める高尾紳路(たかおしんじ)氏(1976―)が、師匠について語った。

 藤沢秀行先生とはじめてお目にかかったのは9歳のときです。先生は60代前半で、胃がんの手術を受けたあとでした。

 私はそれまで「酔っぱらい」というものを見たことがありませんでした。しかし、先生は昼間からぐでんぐでん。「すごい人だなあ。大丈夫かな」と思ったことを鮮明に覚えています。それでも、がんを患って酒量は減っていたそうですから驚くばかりです。

藤沢秀行 ©文藝春秋

 そもそも私は、アマチュア強豪として知られた田岡敬一さん(故人)にお世話になっていました。田岡さんが親交の深い秀行先生に頼んでくださり、門下生となることが許されました。

 しらふの時の先生は優しい方なのですが、こと囲碁に関してはとても厳しい。先生が主宰する研究会や合宿にはほかの門下の棋士も参加していたのですが、私は直接の弟子だったのでより厳しくなったのかもしれません。合宿は湯河原で年に2回、2週間ほど行われました。日程は近くにある小田原競輪の開催に合わせて決められます。まずい手を打ったり、対局態度に落ち着きがなかったりすると、ずいぶん叱られました。単に競輪で負けて機嫌が悪かっただけのときもあったかもしれませんけど(笑)。

 先生は、自分の頭で考えずに誰かの真似をしているような手を嫌いました。「力がつけば自然に勝てるようになるんだから、子供のうちは小器用な打ち方をするんじゃない」とも指導されました。勝ち方のテクニックのようなものは教えられません。相撲にたとえれば、自分の型がないのに引いて勝っても意味はなく、とにかく前へ出ることを覚えなさい、という感じでしょうか。

 入段したのは14歳のときで、五段になる20歳くらいまで、先生に必ず自分の棋譜をお送りし、講評をいただきました。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!

初回登録は初月300円

月額プラン

初回登録は初月300円・1ヶ月更新

1,200円/月

初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。

年額プラン

10,800円一括払い・1年更新

900円/月

1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き

電子版+雑誌プラン

18,000円一括払い・1年更新

1,500円/月

※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事が読み放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年7,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 塩野七生・藤原正彦…「名物連載」も一気に読める
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2008年

genre : エンタメ 芸能 教育