
〇企画趣旨
企業法務を取り巻く環境は、かつてないスピードと複雑性をもって変化しています。グローバルでのビジネス展開が常態化し、各国・各地域で異なる法規制への対応が不可欠となる中、企業にはコンプライアンス対応の高度化とスピード対応の両立が求められています。加えて、ESGや人的資本経営、デジタルプラットフォームの整備に関する規制強化など、法務領域は経営戦略と直結する分野へと進化しています。
また、テクノロジーの進化も企業法務のあり方を大きく変えつつあります。AIによる契約書レビューやリスク抽出、ナレッジマネジメント、ドキュメント管理、eディスカバリといったリーガルテックの実装は、定型業務の自動化・省力化を進め、法務人材がより付加価値の高い業務へとシフトする後押しとなっています。とりわけ、生成AIの進展により、契約書のドラフト支援や論点整理、法的リスクのシミュレーションも可能となり、法務の専門性と技術活用の融合が求められる時代が到来しています。
こうした環境下で、法務部門にはこれまで以上に大きな役割が期待されています。従来の「守りの機能」にとどまらず、事業開発・M&A・海外展開など攻めの経営を支える“戦略法務”としての機能、さらには、経営層や事業部門と一体となってリスクと機会の両面を見極めるビジネスパートナーとしての役割が求められています。また、組織としての健全性・透明性を支えるガバナンス強化や、社員への法意識の浸透といった企業価値の基盤づくりに貢献する法務の存在感も高まっています。
本カンファレンスでは、こうした企業法務の進化を多角的に捉え、変化する時代に適応するための法務の機能再定義、テクノロジー活用の最前線、そして経営との関係性の再構築に焦点を当てます。進化を遂げる法務の「現在地」と「これから」に向き合い、企業全体の競争力強化につながる知見と実践的なヒントを参加者と共に考察した。
■基調講演
AI時代の法と法務
~ AI新法を読み解く ~

学習院大学法学部 法学科
教授
小塚 荘一郎氏
1992年東京大学法学部卒業。千葉大学法経学部助教授、上智大学法科大学院教授などを経て現職。研究テーマは商法、会社法、AI法など。総務省AIガバナンス検討会構成員、経済産業省消費経済審議会会長。
◎AI時代の法と社会のかかわり方
AIにできることは、データの相関関係を発見し、プログラムとして機械的にコーディングすることだ。基本的にはウェブの検索と同じ、いわば高度化した検索システムである。技術の進歩により簡単に精度の高い判断ができるようになった。
AIは人間の「前提」を超えた関連性=相関関係の発見ができる。ただし、関連性をどのように意味づけるかは社会の側の問題であり、社会的には誤りとも言うべき関連性もある。機械学習の品質には注意が必要。例えば最初の「教師データ」は多くの場合人力で作成されるため、社会にこれまで存在してきた差別が反映されてしまう。
AIにはハルシネーション(幻覚)がつきものだが、結局「幻覚」かどうかは社会的な意義づけの問題であり、AIの原理の問題ではない。こうしたことを踏まえて、AI新法についての考察をまとめたのが以下のスライド。

日本のAI法は、AIの“規制(法)”ではなく「基本法」である。各主体の責務の部分に関連して、活用事業者の責務:国・地方公共団体が実施する施策に協力する義務(7条)がある。これがソフトロー(AI事業者ガイドライン等)の根拠となる。ただし、スライドに朱字で示したとおり「指導・助言」その他の処置」という文言があり、今後のソフトロー⇒ハードローへの流れも感じる。
EUのAI Act=AI規制法は、日本とは違い、ハードローによる規制だ。AIシステムをリスクの大小に応じて分類、類型ごとに規制を適用している(リスクベースト・アプローチ)。
◎リーガルテックとAIのガバナンス
リーガルテックへの期待は大きい。企業法務のDX=契約のライフサイクル管理(契約に関するアクションを管理し、さらには契約をデータとして活用すること)は、経済産業省のレポートでも推奨されている。なお、法務業務のうち最も時間がかかっているのが「契約関連」という調査結果がある。
リーガルテックの導入において、「電子署名」はリモートワーク推奨の流れもあり比較的導入が進んでいる。だが、クラウド型署名に電子署名法3条を拡張しても、それだけではハンコの「機能的等価物」にはならない。それは、前提となる社会的事実が違うからであり、根本的なこと=組織のガバナンスを変える必要性がある。従来の就労形態の下で、ハンコの物理的な管理についての社内ルールを前提に、記名押印の代行が行われていたことが“機能”。脱ハンコを実現するためには、それと等価な帰結を実現する就労形態が必要なのだ。
リーガルテックの開発について。AIの利用段階のガバナンスだけではなく、開発段階のガバナンスも重要だ。モデル=一定の手法による学習の結果として構築された「タスクを解くしくみ」を作成。学習の対象は教師データで、これは人間がアノテーション(ラベル付け)をしなければならない。具体的には、マニュアル(Oracle)を作成/一致度を判定/大きく逸脱する結果は破棄、といった作業である。
リーガルテックの品質は、教師データのアノテーションは正しくなされたか?どういう根拠で「標準」を判断したのか(学習した契約書ひな型データの偏り問題解決)?に大きく左右される。AILTA(一般社団法人AIリーガルテック協会)の「リーガルテックとAIに関する原則」には、サービス提供者(AILTA会員)の行動指針として、(1)コンプライアンスの原則 (2)Lawyer-in-the-loopの原則 (3)データ保護原則 (4)サービス理解促進の原則、の4つが明記されている。
このうち(2)は「適法かつ適切な内容提供のために、開発過程に法律分野の専門家が関わることが重要」ということ。開発側のガバナンスに、AIガバナンスにおける“human-in-the-loop”を応用している。(4)は「サービスの特性を踏まえた適切な使い方について理解してもらうことが重要」ということで、サービスの提供者側によるユーザー側のガバナンスの支援も大切だという意味である。
◎AI時代の法務
AIやデジタルによる法的問題の構造の変容は、モノからサービスへ/財から情報へ/法からコードへ、である。モノであれば法律関係は比較的明確だが、サービスについての法律関係は不明確だ。サービス契約では、物の所有権は規律の中心ではなくなる。サービスの基盤はデータであり、データの「所有」とはどういうことか、情報流通の促進という社会的便益をどう捉えるか、を考えなければならない。
「データ主体」によるコントロール、つまり主体の拒否権・同意権、主体の対価請求権も今後は論点になっていくだろう。消費者委員会の「消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会」報告書には「消費者が無意識のうちに情報を提供し、あるいは時間、アテンションを消費させられるという自律性の侵害や、それらの過剰な提供・消費に誘導されるという収奪の問題、あるいは情報、時間、アテンションを扱う事業者に対する消費者の信頼の毀損を消費者被害と捉えた場合には、有償・無償という指標によることなく法制度の在り方を検討するという考え方も必要である」とある。
“Code is law”(法からコードへ)、法に代わるルールをエンジニアが作ること、さらには国地域ごとの社会の倫理観・価値観の差異などを鑑みると、AI原則が「法」ではない「原則の規律」である理由を考える必要がある。法は権利義務の体系であり、主体(個人・法人)への帰属が必須だ。AIの不適切な開発・利用による不利益や不便さには、個々の主体の権利に還元できないものが含まれる。例えば、AIのユーザー(最終利用者)は、“適正学習されたデータ”を使うよう求める権利を持つのだろうか?
解決策としてはガバナンス(社会構成員の意思表明(voice)による公共選択)がある。ガバナンスメカニズムとして透明性+アカウンタビリティ、ガバナンスの指針としてのAI原則を持つ。実は、規制法を作らない日本のアプローチは正しいのではないだろうか。
本日のまとめは以下のスライド参照。

■課題解決講演(1)
法務特化型AIのインパクトと未来
生成AIとAIエージェントの違いを解説

株式会社LegalOn Technologies
執行役員・CCO(Chief Content Officer)
弁護士(日本/ニューヨーク州)
奥村 友宏氏
慶應義塾大学法学部法律学科卒、Duke University School of Law(LL.M.)修了。2011年弁護士登録、18年ニューヨーク州弁護士登録。長島・大野・常松法律事務所を経て、20年4月入社。2023年4月より現職。
◎AIの現在値/法務業務でのAIの現在値
当社が2025年2月に実施したオンライン調査によると、調査対象企業全体の5割超が生成AI/LLMを「利用している」と回答している。AI活用例として、リサーチ、メール作成、企画立案、コンテンツ生成、顧客対応の自動化、業務設計、開発サポートなどがある。AI活用は、多くの職種で活用可能であり、企業でのDX/AXが積極的に推進されようとしている。
経理、人事、総務などのバックオフィスでもAIは活用され始めている。業務効率化やコスト削減、ヒューマンエラー削減、データに基づく迅速な意思決定などをサポートする。
ただし、世界規模でみると、日本はまだまだ生成AI導入が進んでいない。総務省の25年版情報通信白書によれば、日本国内は前年の10%台から55%に急伸したものの中国、米国、ドイツは90%台だ。
法務部門は、高い専門性の必要性、業務遂行は難易度を極める。経営陣からは予防法務(法的な紛争発生を未然に防ぐ)/臨床法務(紛争を解決するために対応する)/戦略法務(戦略を立て事業価値の最大化につなげる)を求められ、依然として守備範囲が広いのが現状だ。また、昨今は増え続ける法令対応・ガバナンス統制にもに追われ、時間的・人的リソースの制約や、属人化、非効率性はいまだ健在だ。
法務部門でのAIツールは導入されつつあるが、まだ限定的である。あくまで情報整理や定型業務の部分的な支援が中心となっている。
具体的なAI活用例としては、契約書ドラフト・レビュー/リーガルサーチ/契約管理などの分野がある。
◎生成AIとAIエージェントの違い、法務における活用/プロダクトの紹介
生成AIは指示に応じて文章・画像などのコンテンツを生成する。一方、AIエージェントは、目標を達成するために自律的・かつ駆動的にタスクを判断・実行するAIだ。法務業務における生成AIとAIエージェントの違いを表にまとめた。活用例を比べていただきたい。

人間は、戦略立案、高度な意思決定、人間的な交渉、コミュニケーションを行う。一方、AIエージェントは定型的な作業、膨大な情報処理を得意とする。AIエージェントは、法務業務を飛躍的に向上させることができるようになる。
生成AI活用の現在値を認識し、AIエージェントの役割を理解し、実態を踏まえて、次の具体的な第一歩を構想する機会になったならば幸いだ。
■特別講演(1)
同意なき買収と株主アクティビズム
~戦略法務の重要性

西村あさひ法律事務所・外国法共同事業
パートナー弁護士
太田 洋氏
敵対的買収・アクティビスト対応、クロスボーダー案件を含むM&A取引、コーポレートガバナンスその他のコーポレート案件、国内・国際税務案件、個人情報・パーソナルデータ保護案件を中心に、企業法務全般を幅広く手がけており、日本経済新聞社による「企業が選ぶ2024年に活躍した弁護士ランキング」では、企業法務全般(会社法)分野第1位及び税務分野第2位にランクインしており、同じく「企業が選ぶ2023年に活躍した弁護士ランキング」では、企業法務全般(会社法)分野及びM&A・企業再編分野第1位に、また「企業が選ぶ2022年に活躍した弁護士ランキング」では、企業法務全般(会社法)分野(1位)にそれぞれランクインしている。編著者として編集・執筆した書籍・論文は多数に上る。
◎企業買収における行動指針と同意なき買収
同意なき買収やTOB提案は増加の一途。会社の存亡にかかわる問題となる場合も多く、「戦略法務」の重要性は非常に高まっている。
経済産業省が2023年に出した「企業買収における行動指針」。これには適用範囲やベスト・プラクティスの提言が示されている。M&Aの活性化を進めるべきという経産省の政策的意図が背景にあることもあって、用語は「敵対的買収」⇒「同意なき買収」、「買収防衛策」⇒「(買収への)対応方針」と言い換えられている。
企業買収における行動指針のエッセンスは『買収提案者と対象会社取締役会とが「共に」真摯に十分な情報開示を行い、その上で買収の是非は最終的には株主による合理的判断に委ねられるべき』というものだ。
指針における3つの原則は、下記スライドを参照。「透明性の原則」が追加されている。

指針における買収提案を巡る取締役会の行動規範(経営陣または取締役が買収提案を受領した場合)は、3つのスクリーニングを経る。(1) 取締役会への付議・報告に値する買収提案か (2) 「真摯な」買収提案に該当するか (3) 買収提案の「真摯な」検討。(1)では、買収提案が書面化されているか否か及びその具体性と買収者の信用力を考慮して、外形的・客観的に判断。(2)では、具体性、目的の正当性、資金面や許認可の面等から実現可能性のある買収提案であるかどうかを、(3)では中長期的な企業価値の向上に資するかどうかを検討・判断する。
取締役は「誰に対して」善管注意義務を負っているのか?米国では会社+株主。従って、取締役の責務は、企業価値の最大化と株主利益の最大化の両方だ。日本では会社+副次的に株主で、企業価値の最大化(そして、株主共同の利益の最大化)である。「企業」価値と「株主」価値についての考え方も日米では異なり、日本では「企業」価値≠「株主」価値かつ「中長期的な」企業価値の向上が重要。米国では「企業」価値=「株主」価値である。
買収提案の「真摯な検討」とは?株主意思の原則を前提としつつ、取締役会が買収の当否の判断を株主総会に全て委ねることは認められず、株主が買収の是非を判断できるよう、一次的には取締役会が買収提案の評価等について説明責任を果たす必要がある。
基本的には(1)「中長期的企業価値の最大化」の観点から、現経営陣側の価値向上策と買収者側の策のどちらがより(中長期的な)企業価値向上に資するかを多角的にチェック・判断し、当時に(2)提案された買収価格は、本源的な企業価値(intrinsic value)に照らして「公正」かチェック・判断すべき(具体的施策提示あり)。
買収提案を検討する際の方向性としては、買収価格と対象会社の本源的価値を鑑みつつ、提案を謝絶/ホワイトナイトを招致/有事導入型「買収への対応方針」を導入・発動/TOBには反対意見表明・応募非推奨、などがある。それらに必要なタスクとしては、本源的価値の算定と(その前提としての)事業計画策定とフェアネス・オピニオンの取得、競争法当局の承認見通しの精査、企業価値毀損のおそれの精査、ホワイトナイト探索などがある。
◎アクティビスト対応の要点
アクティビストが用いる(法的)戦術を紹介する。伝統的に使われているものとしては、株主提案(+委任状争奪戦)/臨時株主総会招集請求(+委任状争奪戦)/会計帳簿閲覧謄写請求・取締役会議事録閲覧謄写請求/違法行為差止請求、がある。
また、株主代表訴訟/株式大量買い上がり⇒自社株TOB(プレミアム付き)を通じた売り抜け/解体型買収も使われており、また、近時では、市場内買い上がり+大規模株主還元誘発による株価高騰時の売り抜け/上場子会社の流通株式比率牴触による完全子会社化取引の誘発/市場内買い上がり+株主提案等の圧力によるホワイトナイトによる買収誘発もある。
さらに、最近では、社外取締役の送り込み(とStrategic Review Committeeの設置)/市場内買い上がり+MBO提案によるMBO等の誘発による売り抜け、といったやや荒っぽい戦術も見られる。
アクティビストに対峙するには、アジャイルに対応して穏健な機関投資家を極力味方につけることがαでありΩだ。「時間」をどれだけ稼ぐかも極めて重要。また、株主利益と役職員の利益をalignする(揃える)株式報酬は有用である。
■課題解決講演(2)
事業スピードとガバナンスの両立に貢献する
MNTSQのAIエージェントとは?

MNTSQ株式会社 代表取締役
長島・大野・常松法律事務所 弁護士
板谷 隆平氏
2013年東京大学法学部卒業。在学中に司法試験予備試験に合格し、14年に弁護士登録。同年に入所した長島・大野・常松法律事務所(NO&T)在籍中、M&A(合併・買収)の契約書からリスクのある条項や抜け漏れを探すため、山のように積まれた書類を1枚ずつ確認し問題点の有無を調べる日々を過ごした。法務領域のAI/テクノロジーによる効率化の余地を確信し、18年11月に東京大学時代の知人と共にMNTSQ株式会社を創業。「フェアな合意がなされる社会」の実現を目指す。20年に「アジアで注目すべきリーガルテック業界の人物30選」に選出された。
法務業務の中で、組織のナレッジマネジメントのために共有された大規模言語モデルを使っている企業はまだ多くない。進化を続ける生成AIは、個人での活用は進んでいるが、組織として使うものにはまだなっていないのだ。
その最大の理由は、ハルシネーション=生成AIがもっともらしく嘘をついてしまうことにある。現状の技術では、生成AIの回答は必ずしも論理的な正しさや事実に基づくとは限らない。ハルシネーションの抑制策は大きく2つある。RAG=生成AIが回答するとき、信頼できる根拠を明示させること、と、Playbook=プロンプトエンジニアリング(AIへの指示内容)の精緻化、だ。
「MNTSQ AI契約アシスタント」は簡易リスクチェック/法務相談要否の判定/一次回答の提示/起票サポートなどを行う。低リスクは即決・高リスクは法務(人間)へ。私たちが提供するのは、スピードとガバナンスを同時にかなえる「全社契約DX」である。生成AIにRAGやPlaybookの考え方を組み合わせて、ハルシネーションを抑制しナレッジを最大限活用できる構造、アプリケーション・データベース横断のエージェント構築を支援する。

MNTSQ AI契約アシスタントの活用により、契約業務は速くて、守れて、負担が減るようになる。速=一次相談はAIで瞬時に完了、契約交渉まで待ち時間ゼロに。6~10日間のリードタイム削減になる。守=高リスク案件は必ず法務へ。低リスク案件は事業部だけで解決し、法務部は高リスク案件や重要案件のみにフォーカス。減=定型業務はAIにお任せ、法務が本当にやるべき仕事だけに集中できる。
MNTSQ AI契約アシスタントは、法務部のバーチャルな新入社員。ナレッジを結晶化して、AIが育つ未来へ。MNTSQ AIは非定型的なものだけ法務部(人間)に向けてエスカレーションする。そして法務部の回答・解決内容はAIにフィードバックされる。こうしたAIの成長で、ビジネスの高速化とガバナンス強化がさらに両立できるのだ。人材難の時代、経営側はこうした態勢構築を行っておきたい。
■特別講演(2)
法務ワークフローにおけるAI技術の活用
Thomson Reutersが提供するリーガル業務ソリューション

トムソン・ロイター株式会社
ソリューションズ・コンサルタント
ジャーディ 絵葉氏
科学者からテクノロジーコンサルタントへと転身し、10年以上にわたり顧客が直面する課題に対して効果的な解決策を提供。現職ではトムソン・ロイターにてリーガルソフトウェアおよびAI技術製品を担当し、特に法律専門家のワークフローの効率化と向上を支援することに注力。トムソン・ロイターに入社する以前は、カナダのバイオテクノロジー企業にて、幹細胞と免疫研究分野の進展に貢献する製品技術スペシャリストとして活躍。マギル大学と大学院を卒業。
◎法律専門家の皆様の生成AIに対する意識と期待
当社が公開した「専門家サービスにおける生成AIレポート2025」によると、生成AIの未来に対し「関心がある」「期待している」が合わせて55%にのぼり、2024年から11%増加。法律事務所の専門家の大多数(89%)が「自身の業務で生成AIのユースケースを想定できる」と回答し、59%が「生成AIを自身の業務に積極的に使用すべきだ」と回答している。
また、回答者全体の95%が、今後5年以内に生成AIが組織のワークフローの中心になると回答し、法律事務所の15%、企業法務の17%、リスク管理の14%が既にワークフローの中心になっていると回答している。1年以内まで含めると、法律事務所の45%、企業法務の43%、リスク管理の39%が、すぐにでも生成AIが組織のワークフローの中止になると考えている。
法務においては、文書レビュー/法的調査/文書の要約/ナレッジマネジメントなどに生成AIが活用されている。日々取り組んでいる法令・判例リサーチ、契約書関連業務、情報収集といった多岐にわたる業務で、生成AIが既に活用され始めている。
リーガル業務における生成AIの活用シナリオと情報リソースについて、次のスライドにまとめた。点線で囲んだ部分は各社(自社)で蓄積していかなければならない。オレンジ色の部分は購入でき、濃いオレンジ色の部分は当社がソリューションを提供できる。

濃いオレンジ色の部分が、当社が提供する「基盤となるサービス」。Westlaw Japan(法務情報総合オンラインサービス/Practical Law(法律実務情報データベース)/Legal Tracker(法務支出・案件管理ソリューション)/HighQ(法律業務基盤ソリューション)である。
これらの基盤と、生成AIリーガルアシスタントの「CoCounsel Core 2.0」が当社のリーガル・エコシステムを構成する。CoCounsel Core 2.0は、法律専門家が法律専門家のために作った生成AIリーガルアシスタント。大量の情報を瞬時に分析し回答を提供する。複雑で時間のかかる業務を素早くこなし、法務部の時間、労力、専門知識を最大限に有効活用する支援を行う。
一般的なLLMとの比較では、信頼性を担保/法律に特化したトレーニング/プライバシーと安全性の確保、という特徴を持つ。導入効果としては、契約書や合意書の非準拠箇所を特定し修正箇所を示すにあたって、一般的な法律業務の平均所要時間に比べ約1.8時間(81%)時間短縮された、という例がある(複数事例とCoCounsel Core 2.0の詳細紹介あり)。
「HighQ」は幅広い法務業務に対応する業務ハブだ。高度なカスタマイズ性/グローバル対応/利用拡張性を持ち、(1)豊富なAPIによる「オープン性」 (2)「データ主権」の尊重 (3)ベンダーロックインからの解放、という設計思想で作られている。
CoCounselとHighQを結びつけることで、リーガル業務の効率化とナレッジ管理の強化が同時に実現する。業務の一気通貫で効率化/ナレッジ管理の強化/パーミッションコントロール/生成AIによるドキュメントレビューの効率化/法的調査の自動化/コンプライアンスのサポート、などが実現する(デモンストレーションあり)。
CoCounsel Coreの日本語版も今秋リリースした。今後もCoCounselを中心とした統合されたユーザー体験を提供すべく、当社のリーガル・エコシステムは進化を続ける。
■特別講演(2)
キリンホールディングスの法務戦略
~ 事業に寄り添う、企業法務のあるべき姿 ~

キリンホールディングス株式会社
執行役員 法務部長
村上 玄純氏
1996年弁護士登録、同年より法律事務所勤務。2002年三菱商事株式会社入社、法務部配属。同社在籍中、米国及び泰国現地法人、日本KFCホールディングス、メタルワンへの出向を経験。22年キリンホールディングス株式会社入社、法務部配属。23年4月より現職。
キリンホールディングスにおけるAI技術の導入例、会社全体のAI導入例としては、まず「生成AIツールによる業務変革基盤の構築」がある。複数の有償版のAIツールを使っており、ChatGPTやCopilotは当社専用にセキュリティ管理、カスタマイズされている。M&Aに特化したチャットボットも最近供用が始まった。AI役員の導入もしており、過去の社内外役員の発言を読み込ませて想定質問・意見を会議中の画面に表示するなどで、役員会における談論風発の一助としている。
過去には例えばインターネット、PC、メール、判例データベースという技術革新が法務業務に大きな影響をもたらした。昨今のDXによる生成AIやリーガルテックは、知的作業の補完・自動化すなわち、契約書のドラフト、法的分析、判例予測などの自動化をもたらしている。
グーテンベルクの活版印刷技術は、宗教改革による聖書情報の民主化をもたらした。今、生成AIにより「法務情報の民主化」が起こっているのである。法務以外の社員も一定レベルの法務知識にアクセスが可能になっている。法務部員は「法的知識の独占者・実務遂行者」から、今後は役割が変化していく。
キリンホールディングス法務部は、下記スライドのように守りと攻めの法務を行っている。AI時代にあっては、戦略法務の部分に注力していかなければならないと考えている。

企業内法務部の機能・役割の変化や進化の方向性は、「守りの法務」の自動化・効率化と「攻めの法務」へ/「専門知識の提供者」から「AI活用の戦略家・指南家」へ/「受動的な存在」から「ビジネスパートナー」へ、という流れである。
外部弁護士の起用への影響は、コスト最適化/専門性・第三者性の活用/共同開発・共創が考えられる。人材戦略は、スキルの再定義/役割の再定義/階層別人材育成/組織文化を考えつつ進めていかなければならない。
いったんまとめると
・連結グローバルベースでの法務体制の推進
・パートナーとしての機能発揮
・DX推進、人財戦略
が、新しい法務機能発揮に向けた実践的アプローチである。
契約審査においても、M&Aにおいても、AIがかなりの部分を担えるようになっている。だが、例えばM&Aにおいては、事前準備の支援/外部弁護士と社内とのスムーズな連携/リスクテイク後押し/振り返りについては、まだ人間でないとできないのではないだろうか。
また、当社はガバナンス機能における戦略法務の一環として“Global Legal Conference”を対面で行っている。昨年はシドニーに関連企業の法務メンバーが集結しコミュニケーションをとった。こうした交流は意思疎通や一体感促進への効果が大きい、AIでは代替がなかなか難しい、ということを実感している。
商標・表示機能のおける戦略法務としては、ブランド戦略支援(法務の視点からブランド価値を守り、育てる)/グローバル商標ポートフォリオ構築/表示戦略とマーケティング連携、といったことに取り組んでいきたい。
2025年9月18日(木) 会場対面・オンラインLIVE配信でのハイブリッド開催
source : 文藝春秋 メディア事業局

