援助交際と何が違う? 2020年の「パパ活女子」

秋山 千佳 ジャーナリスト
ニュース 社会
金払いのいい「太パパ」を求める女たちは告白する。「これはゲームですから、お互いに」。援助交際や愛人契約とは一体何が違うのか。当事者に話を聞いてみた。

パパ活で社会性を磨く

「秘密の副業」を聞くために会った女性は、茶道などを嗜むというだけあって、容姿のみならず所作の美しさが際立っていた。艶やかな黒髪で、アクセサリーは小粒のネックレスのみだが、短くカットした爪に塗ったピンクベージュのマニキュアがさりげない女らしさを漂わせる。彼女がにこやかに語る。

「“パパ活”を始めたのは昨年の夏です。女性ができる副業で、社会性を磨けるものを探していてたどり着いたのが交際クラブでした」

 パパ活とは、女性が食事やデートに付き合う対価として、「パパ」である男性から金銭を受け取る活動を指す。

 契約社員として一般事務の仕事に就いているその女性、優子さん(32)は、交際クラブを通して月1〜数回のオファーを受け、会社帰りに男性と会う。最初はレストランやバーで食事や会話を楽しむ。その先に体の関係を持つこともあるし、互いに気に入れば定期的に会うようになる。どんな関係性でも必ず「お手当」を挟むのがルールだ。

 優子さんがパパ活の道に足を踏み入れたのは、人生を見つめ直してのことだったという。

 東京六大学の1つを卒業した優子さんは、新卒で入社した会社を1年半で辞め、派遣社員として働きながら司法書士を目指していたが、28歳で断念。同じ頃、10年間付き合った恋人とも別れた。

「気づけば28歳で、学生ローンも100万円近くありました。転職活動をしても20社近く落ちて、自分の市場価値の現実を初めて実感しました。ようやく今の会社に入ったのが31歳ですが、有期で3年と決まっている。その先を考えて、自分は何が得意で、どういう時間が勉強になったかと振り返ってみて、おじさんたちの存在を思い出したのです」

 派遣社員として受付業務をした企業では、年配の役員や取引先から、食事や個人的な関係のお誘いがしばしばあった。派遣という不安定な身分で、トラブルになれば切り捨てられるという懸念から個人的な関係は断ったが、食事に同伴すると、社会的に成功している人から自分の知らない話を聞けるのが楽しかった。

「夜のお仕事も考えたのですが、この歳で初めてとなると勇気が出なくて」という優子さんは、パパ活の情報をインターネットで収集し、交際クラブの面接に足を運んだ。ヒアリングシートのような用紙に体のサイズや希望する関係などの情報を記入し、男性会員が閲覧するサイトのための写真と動画を撮影し、1時間ほどで登録手続きが完了した。

疑似恋愛のドキドキ感

 以来、会った「パパ」の年齢は31歳から80歳近くまでと幅広く、多い月だと4人と会ってお手当の総額は30万円ほどに。コースで5万円する銀座の和食店や、六本木ヒルズの会員制レストランなど、自分では行けないような店に行く機会も増えた。最近では会社員の既婚の40代男性と「大人の関係」を持っており、旅行もした。新たな資格取得を考え始めるなど、人生への影響も感じる。

 ただ、その関係にお手当を挟んでいる以上、本気の恋愛に発展することはないと優子さんは断言する。

「疑似恋愛のドキドキ感を楽しみたいというオファーをいただいているので、その時だけはその方と恋人同士になる感じです。私も若い頃にもうちょっと恋愛しておけばよかったなと思っているので、楽しんでいます。いずれは結婚もしたいと思っているので、婚活パーティーにも積極的に行ってます。パパ活を始める前は結婚の焦りや独り身の寂しさもあって空回りしていましたが、今ではあらゆるパパさんとの恋愛のおかげで、心の余裕ができ、話す話題も広がり、出会う一人一人の方と楽しめるようになりました」

 パパ活を「今だけの活動」と捉えつつ、オファーがある限りは続けていくつもりだという。

「パパ活」という言葉が誕生したのは2015年。作ったのは、業界最大手の交際クラブ「ユニバース倶楽部」だ。2011年に木田聡代表(46)がほぼ1人で立ち上げ、今や従業員約140人を擁する組織へと成長した。全国14拠点と海外部門があり、会員は約11500人。男性会員から数1万〜数十万円の入会金や年会費、最初のデートのセッティング料金を支払ってもらい、女性会員とマッチングするサービスだ。

 木田氏によると、「パパ活」という言葉は社内会議で産声を上げた。

「女性(会員)の求人のために考えたものです。若い女性コーディネーターがパトロンやパパという単語を、僕が婚活や就活といった“〜〜活”という案を持ち寄って、じゃあパパ活で良くない? と決まりました。爆発的に広まったのは2年後くらいのことです」

 女性の求人に新たな言葉が必要だったのには、理由がある。

 開始した当初、登録にやってくるのは、複数の交際クラブを転々とするような業界慣れした女性が大多数だった。男性からは「求めているのはこういうのじゃない」という指摘があったと木田氏は振り返る。

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秋山氏

AV女優より普通の子

「女性会員には4段階のクラス分けがあり、当初は、1番上が有名なAV女優、次がルックスのいいキャバクラ嬢、3番目が普通の子と設定していました。ところが男性の満足度は下のクラスにいくにつれて上がるというのが次第にわかってきて。もっと『(金銭感覚含めて)普通』な女性とのマッチングに将来性と未来がある、と考えた時に、交際クラブという言葉だけでは魅力的な女性に来ていただける限界を感じたのです」

 そうした経緯で打ち出した「パパ活」という言葉を広めたのは、アフィリエイター(特定の商品を自らの運営するホームページやブログなどで紹介し、成果報酬を得る人)たちだった。出会い系のアフィリエイト(成功報酬型広告)で稼いできた彼らは、より多くの女性の心を掴み、出会い系サイトへと誘導するために、パパ活というキーワードを発展的に利用した。「肉体関係なし」というイメージ付けをしたのだ。

 ユニバース倶楽部のサイトでは、入会者の求めるものとして「愛人」「お手当の発生するセフレ(セックスフレンド)」という記述があり、肉体関係なしとはどこにも明記していない。しかし、「パパ活」という言葉がより軽い関係性を指すもののように1人歩きしたことで、女性の裾野は一気に広がったという。

「業種として多いのは、美容、飲食、アパレル。ルックスが良くて対人能力もあるけど、年収が低い職業ですね。学生も多いです」

 ただ、男女とも登録時に身分証は確認するものの、プロフィールは基本的に自己申告のため、受けが良くなるように虚実入り交じる。木田氏は「最近は女性のだいたい2人に1人は歯科助手で、入会目的は奨学金返済と留学のためが流行っている」と苦笑しつつ、言う。

「これはゲームですから、お互いに」

 パパ活の始まりの場は多岐にわたる。交際クラブ(デートクラブ)、パパ活アプリや出会い系サイト、ツイッター、出会いカフェや相席居酒屋、キャバクラなどの客と従業員の直取引……。

 中でも参入のハードルが低いものとして、出会いカフェがある。

 早稲田大学を卒業して大手企業に勤める莉央さん(24)は、読者モデルと言われたら納得するような華やかな容姿だ。そんな彼女は大学3〜4年の頃、週1、2回は新宿の出会いカフェに出入りしていた。

フルーツパーラーのパフェ

「大学の友達から教えてもらったんです。ヘアアイロンや化粧品、マンガがあって携帯も充電できて、お菓子まであるのに、女の子は無料なので、飲み会までの時間つぶしとかメーク直しの時に使えるよと」

 女性は入店すると、ソファやカウンター席のある部屋で思い思いに過ごす。莉央さんの印象では大学生と思しき人が大半で、夜の仕事の出勤前の時間潰しと思われる人もいたという。一方、男性は数千円で入店すると、女性のいる部屋をマジックミラー越しに見ることができる。気に入った女性がいれば指名し、個室で店外デートの交渉をする。

 莉央さんが応じるのはカフェデート30分、お手当は5000円。70手前くらいの男性に「月10〜20万のお手当で週1回、体の関係どう?」と交渉されたこともあったが、多くはスーツ姿の30〜40代で、さほど金銭的余裕があるようには見えなかったという。「職場で若い子に相手にされない人が、かわいい大学生と話して鬱憤を晴らすんじゃないですか」と莉央さんは冷ややかだ。

「おじさんと店を出るときには、大して親しくもない友達に見られないか不安だったので、マスクをしました。ただ、一緒に店に行った友達と、40代後半くらいのおじさんと3人でタカノフルーツパーラーのパフェを食べたことがあります。『うちの娘が高校生で早稲田目指してるんだ』という話をして、普段はパパ活アプリを使っている友達とおじさんはラインを交換していました」

 莉央さんはそれ以上の関係を持たなかったが、連絡先を知りたいという男性に「捨てアド」、使わないメールアドレスを教えただけでさらに8000円もらった時には、「家具屋のバイトで1日働くのと同じくらいの額だ」と複雑な心境になったという。

 パパ活について、以前なら「援助交際」とか「愛人契約」と称されていたものと大差ないと感じる人もいるだろう。

 大学時代にパパ活をしたと語る一方、高校時代の類似の行動を「援助交際」と呼び分けるのは、首都圏の女子大を今春卒業した菜月さん(23)。現在はキャバクラやバーでアルバイトをするギャル風の女性だ。

金払いのいい太パパ

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女性に月150万払う男性も

 菜月さんは援助交際を「食事なしで(セックスを)やる前提のもの」と解釈している。部活動で忙しかった高校時代、月10000円の小遣いで足りなくなると、出会い系サイトを使って1回15000円で援助交際をしていたという。

「パパ活」を始めたのは大学入学から1年が経った頃。中高の同級生に「交際クラブに一緒に登録行こうよ」と誘われた。クラブの面談では、スタッフから「大人の関係」の可否を尋ねられ、「5万円くらいが妥当です」と教えられた。

 オファーが来れば男性と会い、相手に気のない様子であれば、高級店で食事をして2万円程度のお手当で解散するが、その日のうちに体の関係へと進むこともあった。贅沢な食事つきで、高校時代の援助交際よりも得る金額が上がったことを菜月さんはこう分析する。

「パパ活という体のいい言葉が出てきたからだと思います。お互いにプライドができちゃったんじゃないですかね」

 パパ活をする女性は特に金払いのいい男性のことを「太パパ」と呼ぶが、菜月さんの太パパは、会社役員だという恰幅のいい50代の既婚男性だった。オファーがあるのは3ヶ月に1回ほどだが、カラオケに同行するだけで10万円のお手当があった。男性はブルーハーツや井上陽水を熱唱。そして菜月さんに「うちの娘と同い年だ」と言いながら、カラオケの後はホテルに誘ってきた。

「キモッ(気持ち悪い)とかクサッ(臭い)という気持ちはあるけど、シャンパンを3本くらい空けてバカほど酔ってやっていました。追加のお手当はセックスしてもしなくても、ホテルに行った時点で5〜7万円。どうしても無理と思った時はトイレに籠りました」

 菜月さんはお手当で1人暮らしを始め、100万円近くを美容整形に使ったが、大学3年生の頃、体の関係ありのパパ活をやめた。太パパは友人に紹介して縁を切ったという。「私は愛人みたいにはなれなかった」として、菜月さんはこう話す。

「若さに価値がつくのは21、2歳頃まで。そこからはパパ活して体を売らなくても人柄を買ってくれる人がいると思って、キャバクラで頑張ることにしました」

「パパ活女子」の活動は、対として経済的に裕福な「パパ」がいなければ成り立たない。

「40歳で起業して、事業がうまくいって、調子に乗ってパパ活に月150万円使う男……正気の沙汰じゃないですよね」

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source : 文藝春秋 2020年1月号

genre : ニュース 社会