停滞する経済のなか、台頭するナショナリズム……
池上 「元号とは何か」と改めて考えさせられます。元号が変わっても普段の生活が変わるわけではない。日常でも西暦を使うことの方が多い。しかし今回の動きを見ていると、元号による時代区分がやはり日本人には沁みついていると感じました。
佐藤 日本人は、元号を自然と受け入れていますが、世界的に見るとかなり異質です。最高権威者にもとづく時代区分は、カトリック教会か北朝鮮くらいにしかない。
池上 「平成」という区切りが実感をもつのは、その始まりが、たまたま冷戦の終結と重なっていることも大きいですね。冷戦後は、新しい秩序をめぐる激動の時代で、湾岸戦争が起こり、「イスラム国」が出現し、中国が台頭する一方で、覇権国だった米国は徐々に衰退した。しかも平成の終わりとトランプ登場というタイミングがほぼ重なっている。
国内を見ても、平成の始まりにバブル経済が崩壊し、その後、デフレ不況が長期に続く。金融危機で次々に銀行や証券会社が破綻し、そこから日本経済をどう立て直すか、さまざまな試行錯誤がなされた30年でした。若者からすれば、「就職氷河期」が長く続いた30年。これを「失われた30年」と呼ぶ人もいる。
佐藤 平成は、明治と昭和に挟まれた大正と似ています。昭和と新元号の次の時代の間に挟まれた過渡期の時代。ただしベクトルは逆方向で、日本が強くなっていった大正の15年に対し、日本が弱くなっていった平成の30年でした。
象徴天皇が肉体化した平成
池上 前回の改元時を振り返ってみると、昭和が終わった昭和64(89)年1月7日、私は天皇崩御を報じる宮内庁記者でした。同日、新しい元号「平成」が発表されます。「内平らかに外成る(史記)、地平らかに天成る(書経)」という中国古典を典拠としたもので、「国の内外、天地ともに平和が達成される」という意味です。この新元号に接して、戦争と結びついた昭和の“重苦しさ”から解放される気がしたことを覚えています。
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source : 文藝春秋 2019年4月号