中尾さん、池波さんの「終活」
2020年12月3日に「家族への想いをカタチに~遺言書にやさしさをこめて」と題して、相続オンラインセミナーを開催いたしました。『終活夫婦』を執筆された中尾彬さん、池波志乃さんご夫妻にご出演いただき、終活に取り組んだ経緯や遺言書の考え方について、三井住友信託銀行財務コンサルタントの植木さんとともに語り合いました。
✳︎
(左から)中尾彬さん、池上志乃さん、植木敏晴フェロー
植木 お二人はいつ頃から終活に取り組み始めたのでしょうか。
中尾 そもそも「終活しよう」なんて始めたわけではないんですよ。家の整理をしていたら、知人に「それは終活ですね」と言われて、初めてその言葉を知ったんです。
池波 うちは子どもがいない人生を選びましたし、お互い病気もして、自分の足でお墓に入るわけにはいかないと考えたとき、自分の始末をしておくことが責任と思ったんです。そして、60歳の頃から身の回りの整理を始めました。やってみて、始めるのに早すぎることはないと実感しましたね。だって「そろそろ終活でもしない」なんて体調を崩してからでは切り出せないでしょう。
植木 そうですね。最近は60代で終活のご相談にいらっしゃる方も増えているんですよ。ここで視聴者の方に終活についての皆さんの状況を聞いてみましょう。
<結果>
Q:終活について準備を進めていらっしゃいますか?
A:①遺言書等の準備をしている 6%
②徐々に準備を進めている 23%
③始めたいが手付かずでいる 60%
④まったく考えていない 11%
終活は遺言書から始まった
植木 どこから始めればいいか分からないという人も多そうですね。お二人はどんなところから始めましたか?
中尾 うちにはこれだけのものがあると書き出して、万が一の時に財産を託す人に伝えたいことを書き添えておく。そんなところです。結果的にその作業が遺言書作りになりました。
池波 遺言書というと堅い印象ですけれど、もっとやわらかで、周囲の人へ手紙を綴るようなものです。堅苦しく考えなくていいんだなとわかりました。
中尾 遺言書作成は意外と簡単でした。書き直せますから気軽にやりましたね。
植木 おっしゃるとおりです。遺言書は、今最善だと思えるものを作り、後から見直していけばいいんです。お二人のように自分のわかる範囲から財産目録を作っていくのが取り組みやすいですね。
植木 遺言書は自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらにされましたか?
中尾 公正証書遺言を作成しました。
植木 それなら安心ですね。公正証書遺言は面倒な家庭裁判所の検認手続きもありませんし、方式の不備や偽造紛失の心配がありません。
大きいものから処分 不動産の処分は大仕事
中尾 まずは大きなものから整理していこうと、最初に手をつけたのが不動産です。千葉にアトリエを、沖縄にセカンドハウスを持っていたので、これらを片付けておこうと考えたんです。しかし処分は大変でした。築30年超のアトリエを解体しようにも、費用がかさむんですね。偶然、アパートを建てたいというお声がかかったので売却できましたが、解体費や税金などを差し引けばトントンでした。
池波 空き家問題もありますし、放置していたら負の遺産になったかもしれません。これまで楽しんできたのだから、儲けようとしてはダメですね。
植木 元気なうちに不要な不動産は売却してお金にしておけば、相続人も困らずに済みます。不動産は資産価値もある反面、お金などと違って簡単に分けられないため、トラブルになりやすいんです。あと、不動産については相続税も考慮しておくことも大切です
まずは、各ご家庭の事情に合わせて専門家に相談するのがおすすめです。不動産の処分を終えれば、身の回りの整理にもじっくり取り組めます。
池波 身辺の整理は今も続けています。悩んだらまず目につくところに置いて、三日目には捨てるルールです。
中尾 写真は一万枚は捨てましたね。思い出は頭と心に残しておけばいい。私のスカーフなんて200本は捨てました。頑張って稼いだお金で手に入れたものですから、思い入れはあります。しかし処分することで、新しいものも買えると思うようになりました。
池波 身辺整理はいわゆる断捨離ではないんです。例えば、私は料理が好きでしたが、重たい鍋はこの先使いにくくなるだろうから、思い切って処分して、便利な鍋に買い替えました。これからの自分にふさわしい品物を手に入れる作業だと思っています。
夫婦でお酒を酌み交わし人生をあれこれ振り返る
植木 本当にお二人とも仲良く過ごされていますが、夫婦で終活に向き合う上でのポイントはありますか?
中尾 相手が何を大切にしているかを見極めて尊重することが大事ですね。
池波 せっかくの思い出の品がケンカの種になっては残念ですもの。「これを買って楽しかったね、でももういらないね」と話せるといいですね。もしも夫婦で話す機会が減っているなら、会話の糸口になるかもね。
中尾 うちはそこでお酒も入るから長くなるわけだ(笑)。
池波 「そういえばあの時は……」なんて脱線したりも、よくあります。
中尾 そうやって二人で人生を振り返っていると、新たな発見もあります。結婚して43年経ちますが第二の新婚時代のつもりで過ごしています。
植木 人生100年時代と言われる現代にあって、終活とは、前向きに安心して老後を生きていくための準備でもあります。幸せな終活、その答えがお二人の会話の中になると思いました。本日はありがとうございました。
2020年12月3日 文藝春秋にて開催
source : 文藝春秋 メディア事業局