国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです
【し】「シャコ」という名前 これも中国語かららしい
日本語は語彙の大半を中国語から借りています。そもそも、使っている文字が中国語由来です。漢字はもちろん、仮名だって漢字からできたものです。
一方で、近代には、日本製の熟語が中国語に輸出されるようになりました。中国語のとある辞書には、日本語由来の語として「意識」「科学」「時間」など900語近くが載っているそうです(沈国威『近代日中語彙交流史』笠間書院)。
日本語と中国語はお互い助け合っている。こんなことは、普段私たちはあまり意識しないのではないでしょうか。
日本でできたことばかと思ったら、意外なことに中国語だった、という例は多くあります。たとえば、照明器具の「あんどん」。和物の感じがしますが、これは「行灯」という漢字を唐音で読んだもので、中国語由来のことばです。
あるいは「のれん」もそうです。「のれん会」などとひらがなで書くことも多いけれど、「暖簾」の唐音「のんれん」の変化で、元は中国語です。
ここで唐音というのは、平安中期から江戸末期までに日本語に入った中国語の発音のこと。一般的な音読みに比べて、ちょっと現代中国語の発音に似たところがあります(ちなみに、現代の北京語では「行灯」「暖簾」です)。
「行灯」「暖簾」の出自は『三省堂国語辞典』でも説明していますが、最新の第8版でも説明しきれなかったことばがあります。「シャコ」がそうです。
私が言うシャコとは「蝦蛄」で、エビに似た甲殻類のこと。スシネタにもなっているやつです。これも、語源からすると中国語のようです。
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source : 文藝春秋 2022年4月号