国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです。
【き】「金融」は明治時代日本で作られた新漢語
金融分野でも競争力が低下している日本。この国がふたたび世界の金融センターとなる時代は来るのだろうか。
などと深刻に書きましたが、そんな話は私の専門外です。ここでは「金融」ということば自体を取り上げます。
「金融」を辞書的に言えば、資金が貸したい人から借りたい人へと流れること、または、流れるようにすることです。難しい概念のようですが、ことばの成り立ち自体は難しくありません。
明治時代の三遊亭円朝の落語に〈他から預て居(お)る金を融通しやう〉(「業平文治漂流奇談」1889年)というせりふがあります。金を都合をつけて貸してやるのが「金の融通」。略して「金融」です。「金融」には、もともと日常的な、平易な語感があったのです。
「融通」ということばは、元は「滞りなく通ずる」という意味の中国語ですが(「融通無碍」なんて言いますね)、日本では中世から「ゆうづう」「ゆづう」の形で普通に使われました。江戸時代の式亭三馬「浮世風呂」では、隠居の爺さんが、金銀は使うときに使わねば〈融通が悪い〉(=やりくりに困る)と言っています。日常語なのです。
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source : 文藝春秋 2022年5月号