国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです。
【い】「一丁目一番地」は政界語として晴れて定着
「『一丁目一番地』ということば、まだ使われているのかな」。そんな疑問が、『三省堂国語辞典』(三国)第8版の編纂中に頭に浮かびました。
このことばは主に政界・官界で使われてきました。「問題の処理は行政改革の一丁目一番地だ」というふうに。意味は「最優先(の課題)」ということです。
なぜこう表現するのかは不思議ですが、住居表示の番号は市町村の中心部から割り振られるため、とも考えられます。使い始めた人の頭には、1950~60年代のラジオドラマ「一丁目一番地」があったかもしれません。
このことばが特に使われた時期があります。お分かりになりますか。2009年に鳩山内閣が成立した直後です。
国会会議録を見ると、「最優先」の意味の「一丁目一番地」は1985年から使われ、使用回数は毎年0~20数回程度で推移していました。ところが、鳩山・菅政権の2010年に突出して多くなり、166回に達します。
私がこのことばを最初に認識したのも同じ時期でした。〈家計に対して刺激を与える、と。これが私たちの連立政権の一丁目一番地ですからね〉と鳩山由紀夫首相が語る様子を、09年10月にNHKニュースで目にしています。
当時、メディアでも「一丁目一番地」が多少話題になりました。朝日新聞ウェブサイトの「ことばマガジン」では10年に2回にわたって取り上げています。『現代用語の基礎知識』の11年版にも詳しい記載があります。
この流れを受け、14年刊行の『三国』第7版も「一丁目一番地」を載せました。報道で盛んに耳にする以上、必要な項目と判断したわけです。
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source : 文藝春秋 2022年3月号