国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです。
「MD」「コギャル」「着メロ」などのことばが辞書から消える! そんな報道を12月に入った頃からよく目にするようになりました。私が携わる『三省堂国語辞典』(三国)の新しい第8版で、既存項目のうち約1100項目が削除されたことが注目されたのです。
辞書を改訂するたび、「今回削った項目ってないんですか?」とよく聞かれます。そのつどいくつか例示していたはずですが、今回の改訂に際しては、削除した項目をどーんと公表しました。それで大きく報道されたのです。
「MD」はミニディスクのことで、主として1990年代に録音用の媒体として使われました。「コギャル」は、やはり90年代によく目にした、顔を黒く焼いたりした女子高校生のこと。「着メロ」は、ガラケーで使われた、着信を知らせるメロディーのことです。
「そんなことば、昔あったなあ」と懐かしがる反応とともに、批判的な意見も出ました。代表的なのは、あるワイドショーの識者の発言でした。「ことばは時代の足跡、レガシーだ。消しちゃいけないと思う」。ネットでも「文章を読んでいて『MD』が分からなかったらどうするのか」などの声が上がりました。
気持ちは分かりますが、この『三国』という辞書の方針は、現代の生活で、ぜひ知っておきたいことばから優先的に約8万語を選び出して解説するというものです。いわば、現代語の地図を描こうとしていると言ってもいいでしょう。
新しい地図には、もうなくなった建物や、埋め立てられた川などは記入しません。それと同じで、『三国』では、現代語としてあまり使われなくなったことばは退場してもらうことになります。
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source : 文藝春秋 2022年2月号