古巣 読売の前川報道を批判する

特集 日本の底が抜けていく

中西 茂 元読売新聞編集委員
ライフ 政治 企業

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前川喜平氏 ©文藝春秋

 国家戦略特区による学校法人加計学園の獣医学部設置を巡る議論がおかしい。「総理のご意向」が事実かどうかという1点にこだわって、明るみに出た文書の信憑性ばかりにとらわれるのも、規制緩和はすべて善であるかのように主張するのも、極論である。そして、議論をさらに迷走させたのが、読売新聞による文部科学省の前川喜平・前事務次官の〈出会い系バー通い〉の報道だ。獣医学部を巡る一連の問題が議論されてきた通常国会は、生煮えのまま閉会したが、加計学園問題も、読売報道を巡る問題も、くすぶり続けている。どちらも、このままで終わらせるわけにはいかない。

 日本記者クラブで6月23日に記者会見した前川氏は、「特区制度は特定の場所の特定の主体に特別の恩恵を与えるものだから、特に決定プロセスに透明性と公平性が必要だ」などと、2時間近くにわたって質問に答え続けた。それでも、この問題は疑問が尽きることはない。

 私は記者として33年間勤めた読売新聞社を2016年に退社した。新聞社時代の3分の2を教育問題の取材に費やし、大学の教員となった現在も、教育ジャーナリストとして活動を続けている。加計学園を巡る議論は一度には語り尽くせない複雑さをはらんでいるが、本稿では、リアルタイムの議論から1歩引いて、規制緩和の問題と、前川前次官という人物について、さらに、私の古巣である読売新聞の報道について論じていきたい。

規制緩和に必要な慎重さ

 まず、規制緩和である。特区制度には、政権トップの意向が反映されるのは当然という側面が確かにある。恣意的だったかどうかについては、「言った」「言わない」の水掛け論に陥っている状態だ。

 獣医学部を誘致する愛媛県今治市側の用地提供まで、首相のお友達だからと問題視するむきもある。大学誘致のための用地の提供や建設資金の助成自体は、「公私協力方式」と呼んで以前から全国至るところで行われてきた手法である。

 だが、新しい分野に挑戦するための規制緩和が閣議決定で認められたからといっても、大事なのは手続きだけではない。結果として、新しい分野の獣医学部のニーズがあるのか、そのための教育・研究体制が十分なのかが、冷静かつ客観的に検討されたかどうかが重要なのである。

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source : 文藝春秋 2017年08月号

genre : ライフ 政治 企業