ウクライナ戦争「超精密解説」

小泉 悠 東京大学先端科学技術研究センター准教授
高橋 杉雄 防衛研究所防衛政策研究室長
ニュース 社会 国際 ロシア

レオパルト2は戦況を一変させるか?

 高橋 この対談がおこなわれているのは3月中旬ですが、激戦地となっているのは、ウクライナ東部の街・バフムトです。ロシア軍によるバフムトへの攻撃は、昨年の5月、東部ドンバス攻勢の一環として始まりました。ロシア側は民間軍事会社「ワグネル」の部隊を主力として投入してきましたが、ウクライナ側も徹底抗戦の構えを崩さず、双方の攻防は激しさを増しています。

 小泉 事態が大きく動いたのは今年1月でした。バフムトのすぐ北側に位置するソレダールをロシア軍が陥落させ、その勢いに乗って、街の南北をどんどん制圧していった。兵站線が圧迫された結果、3月に入ってからは、バフムト市の東半分もロシア軍に制圧されたと見られます。正直、ウクライナ軍は「撤退やむなし」の状況ですが、非常に頑強に抵抗して、なんとか持ちこたえていますね。昨年夏のセベロドネツク攻防戦では部隊を保全することを優先して撤退を選びましたが、今回はまだ粘っている。

バフムト近郊の様子 ©時事通信社

 高橋 ロシア軍の当面の目標は、東部ドンバス地方(ドネツク・ルハンスク二州)を完全に制圧することです。大部分はすでに支配下に置きましたが、ドネツク州の北側部分はまだウクライナが維持している。そこに進むための突破口を開くために、膨大な犠牲を払いながらバフムトを攻撃している、というのが大方の見方ですよね。

 ただ、よく分からないのは、「なぜここまでバフムトにこだわっているのか」ということ。他にも攻めこめそうなポイントはたくさんありますからね。例えば、バフムトの南側に位置する街・ドネツク。ロシア軍は開戦してからずっと、ここからも攻勢を仕掛けているのですが、なかなか上手くいっていない。ドネツクの部隊を強化して、突破口にしても良さそうですが……。

高橋杉雄氏 ©文藝春秋

バフムトに執着する理由

 小泉 つけ加えると、ロシア軍はドネツク州南西部のウフレダル、ルハンスク州西部のクレミンナやスバトボからも攻勢をかけています。多方面から攻めこんで、ドンバスで取り残しているポケット状の部分を、まるっと制覇してしまいたいのでしょうね。

 高橋さんのおっしゃる通り、ロシア軍はその中でも、バフムトに異様にこだわっている。それが軍事的合理性からなのか、政治的な理由からなのかは、議論の余地があると思います。

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source : 文藝春秋 2023年5月号

genre : ニュース 社会 国際 ロシア