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【イベントレポート】2025年・2030年問題 カンファレンスレポート ~採用・教育・育成・生産性の視点から探る人材不足解消の秘訣~

■企画趣旨

労働人口の減少により人材不足、人材の高年齢化が深刻化し、生産性の低下や経済の停滞が予測されるいわゆる「2025年問題」「2030年問題」への対策が急務となっています。

2025年には高度経済成長を支えてきた「団塊世代」が75歳以上を迎え、また2030年には人口のおおよそ3分の1が65歳以上の高齢者になることから、社会保障費の増大、労働人口の減少は避けて通ることができません。こうした中、企業経営者は採用や教育の効率化・高度化による即戦力人材の獲得および定着率の向上とともに、デジタルを活用した省力化や生産性向上に取り組むことが競争優位を獲得していくための不可欠な条件となってきています。

成長産業や新興技術分野では特に人材獲得競争が激化するため、人が集まる魅力的な職場環境の構築、帰属意識を高めるビジョンの共有やパーパスの発信、多様な人財が集まるダイバーシティ&インクルージョンの推進、成長機会の創出など、ハード面、ソフト面から柔軟に改革を進めていくことが重要となります。

そこで、本カンファレンスでは労働人口の減少と高齢化社会により喫緊の課題となっている若手人材・即戦力人材の採用、定着、人材育成、生産性の向上ついて、有識者の視点、企業側の視点、プロフェッショナルの視点から課題解決の方向性、実践事例を考察します。

■基調講演

2025・30年の労働市場
~ 人手不足を克服する企業戦略 ~

中央大学
経済学部 教授
阿部 正浩氏

1996年、福島県いわき市生まれ。電力中央研究所社会経済研究所主任研究員、獨協大学教授などを経て2013年から現職。専門は労働経済学。著書に「日本経済の環境変化と労働市場」「職業の経済学」「多様化する日本人の働き方——非正規・女性・高齢者の活躍の場を探る」など。

有効求人倍率は、リーマンショック後の2009年に「1」を大きく下回り、その後上昇に転じて2013-14年以降は1を上回るようになった。コロナ禍でいったん下がったものの、現在は再び上昇中だ。注目すべきは、充足率(登録している求人が採用できた割合)で、2009-10年に35%近くあった数字がその後下落を続け、2022年は10%台前半である(数字はいずれも厚生労働省「職業安定業務統計」より)。つまり、求人が10人あってもに1人くらいしか採用できていないことになる。

求人数が求職者数を上回っており、また、企業側と労働者側のミスマッチ=職種や年齢、能力、雇用条件、地域……なども多く、充足率が大きく下がっている。帝国データバンクによると、人手不足倒産件数も2022-23年は大きく増えている。

ところで、2030年になると18歳人口は103万人。1990年には200万人、2020年には115万人いたので、大幅減である。2023年の出生者が約70-80万人と推測されているから、その18年後は今よりも大幅に少ない18歳人口の下で採用活動をすることになる。

◎労働市場の未来推計2030

私たちの2030年の予測では、15~64歳の生産年齢人口は現在よりも約940万人減少する。老年人口の割合はどんどん大きくなるため、税や社会保険制度はかなり厳しいものになるだろう。2030年時点の人手不足数は644万人(実質賃金=時給2096円)と予測している。これは2017年の実績値である121万人(実質賃金=時給1835円)に比して、かなり大きな数字だ。人手不足により実質賃金は上がるだろう。

644万人の人手不足をどう埋めるか。(1)働く女性を増やす(2)働くシニアを増やす(3)働く外国人を増やす(4)生産性を上げる、といった対策が考えられる。

(1)働く女性を増やす=25-29歳の労働力率が45-49歳まで継続すると仮定した場合、87万人の労働力が確保できると試算している。
(2)働くシニアを増やす=この場合も、女性が若いうちから活躍しキャリアを積み、高齢期になっても継続して働いてもらうことがカギになる。男女合わせて224万人の労働力が確保できると試算している。
(4)生産性を上げる=資本生産性、労働生産性、全要素生産性(TFP=技術革新、人材配置、人事・労務管理の妙)を上げれば、GDPは拡大する。機械化、人材の質を高める、適材適所への人材の配置、イノベーションの促進、などの施策が考えられる。ただし、企業が支出する教育訓練費の額や、労働費用全体に占める割合はここ数年減少してきており(厚生労働省「就労条件総合調査」より)、今後は労働生産性に影響するのではないかという懸念を持っている。

人手不足を克服するために、採用を工夫したりミスマッチをなくすことはもちろんだ。それに加え、即戦力ばかりを求めず、人材のいいところを見て採用し自社で育てて活用するようにしたい。また、人事配置、人事労務管理もやはり大切である。

■課題解決講演(1)

採用の新時代。ROI視点で考える
運用型採用サイトとブランド形成の力

株式会社PR Table
共同代表取締役/Founder
大堀 航氏

2008年、大手総合PR会社のオズマピーアールに入社し、IT企業を中心に広報戦略立案・実行業務に従事。2012年、レアジョブに入社し、広報責任者として14年6月に東証マザーズ上場に貢献。14年12月、弟の大堀海とPR Tableを創業する。有名ベンチャーキャピタルより累計11億円強の資金調達を完了。企業の採用課題を解決するデジタルPRソリューション「talentbook」を通じて、これまで累計1000社以上の大企業・成長企業の情報発信を支援している。

◎労働市場の環境/採用手法の潮流

労働人口が減少し、雇用の流動化が促進されている。職種は多様化し、ジョブ型へ移行、キャリア志向の高まりと共に働き方の選択肢も増加している。これらにより、採用活動の難易度が格段に高まってきている。

マス採用からパーソナライズ採用へ、専門部署の設置によるダイレクトソーシング強化へ。各社の採用態勢が待ちから攻めへ転じている。攻め=採用ブランディングに投資し、各種施策のROI(Return On Investment)向上・採用目標の達成を狙うようになった。

多くの会社で「自社サイトの改善」が最重要課題となっている。しかし、人事採用部門の担当者は、改善効果の実感がない/候補者層が何を知りたいか分からない/制作会社が採用領域への知見が薄い、といった課題を抱えているようだ。

◎“運用型”採用サイトとは

サイトの更新性が入社意向度に大きく影響する。働き方、人、職種に関する事例コンテンツを特に必要としている。求職者は、企業情報をナビ・口コミサイトに加えて「検索サイト」から調べる。企業名・職種に関するワードで検索する。

そこでニーズを捉えた“運用型”採用サイトが有用になる。リアルな働き方、仕事内容、キャリアに関するコンテンツが豊富/週次・月次更新/必要な情報に辿り着くシンプルなUI、が有用だ。

ウェブサイトは作って終わりではない。豊富なコンテンツをSNSで活用すれば、“運用型”採用サイトの効果を最大化することも可能だ。ウェブを採用活動における情報発信の主軸に据えることで、母集団形成から内定承諾までのプロセスで効果を発揮する。

◎導入のポイント / ROIの考え方

制作・導入のプロジェクト予算は、従来の求人広告や人材紹介予算などから再配置するのがいいだろう。発注先はなるべく少ない社数とし、設計から運用までを依頼する。これはコストの膨らみを抑制するためでもある。着手後は、サイトへの訪問数をはじめ各種数値を改善指標として設定する。いわゆるPDCAを回し、検証して改善していく。

直接応募の増加による採用コスト削減・投資回収シミュレーションも、少し長めのタームで行っておきたい。

 メディアプラットフォームtalentbookを活用しながら、企業の採用ブランディングの戦略・実行をワンストップで支援するPR Table。当社は、キャリア事例コンテンツの量産と動画・SNS/デジタル広告の活用など各種施策の“運用改善力”を持っている。採用サイトとtalentbookを組み合わせ、リーズナブルに“運用型”採用サイトを具現化することも可能だ。有効応募数/先行通過率の増加、人材紹介比率の低下などの支援をさせていただければ幸いだ。

■特別講演(1)

若手社員を定着させ、活躍させるためのオンボーディングの実践
~組織になじませるための入社前、入社後のサポートの大切さ~ 

甲南大学
経営学部教授
尾形 真実哉氏

神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程終了後、甲南大学経営学部経営学科専任講師、准教授を経て現在に至る。専門は組織行動論、経営組織論。若年就業者の組織適応を中心に研究を重ね、2011年には若年看護師の組織適応分析に関する論文で人材育成学会論文賞を受賞。最近の研究テーマとしては、経験者採用者の組織適応と効果的なオンボーディング、さらに、管理職の育成力をいかに向上させるか(育成上手の研究)にも尽力している。

◎組織になじませる力を身につける/新入社員の組織適応課題を理解する

少子高齢化とはすなわち労働力の枯渇である。転職が当たり前の社会となり、Z世代の意識変革も著しい。「組織になじませる力のある企業」にならないと、優秀な人材が採れない、採れてもすぐに離職する人材流出企業になり、淘汰されるだろう。

組織になじませる力=オンボーティング。会社という乗り物に新しく加わった個人を同じ船(会社)の乗組員としてなじませ、一人前にしていくプロセスのことだ。新しく組織に参加してきた個人の円滑な適応をサポートするもの全てがオンボーディングといえる。情報を与える(インフォーム行動)、迎える(ウェルカム行動)、導く(ガイド行動)の3要素がある。

オンボーディングは基本的には入社後からの施策だが、その範囲を広げ、入社前からオンボーディングは始まっているという意識を持つことが必要。それは、新入社員の組織への適応課題であるリアリティ・ショックを緩和する(あるいは生じさせない)ためだ。
 
リアリティ・ショックとは、入社前に形成された期待やイメージが入社後の組織現実と異なっていた場合に生じる心理現象で、新人の組織コミットメントや組織社会にネガティブな影響を与え、早期離職を生じさせる。それは、新人が入社前に非現実的で不正確な期待を抱いてしまうためだ。採用過程における組織からの不正確な情報伝達や、伝えるべき情報を伝えないために生じることが多い。

◎入社前:プレオンボーディング/入社後:オンボーディングの充実化

しっかり学び、仕事に取り組んでいるように見える新入社員が、突然辞めてしまう。それを防ぎ、抑制するための組織的施策はさまざまある。

採用活動中は、現実的職務情報=Realistic Job Preview(RJP)の事前提供が有用だ。良いところばかりを伝え、大勢来てもらい、大勢の中から優れた人を選ぶ伝統的なリクルーティングは、リアリティ・ショックの原因となる。ネガティブな面も含めた正確な情報の事前提供が重要である。

日本の採用方法(特に文系の新卒一括採用)は、リアリティ・ショックが生じる温床となっている。日本においては今後、Job(職務)だけではなくOrganization(現実的組織情報)やCareer path(現実的キャリアパス情報)の事前提供が必要だ。具体的には下記スライドを参照。新入社員の組織適応施策は、採用段階から始まっているのである。

内定後はトランジション・スロープをかける。入社前から仕事のリアルを体験してもらう(内定者インターンシップ)/入社後に直面しそうな適応課題を伝える/2、3年目社員に新入社員時に直面した適応課題やそれをどのように乗り越えたのかを語ってもらう、といったことが考えられる。

入社後の配属は「育成」の観点に転換を。育成上手な上司のいる職場に新入社員を配属する。「配属ガチャ」という言葉をなくしたい。効果的な新入社員研修や2年目研修も有用だ。

具体的には、(1)適応課題と対処行動の理解促進(知識の伝授)。例えば、新入社員同士が現在直面しているリアリティ・ショックについてディスカッションする場の設定を。(2)プロアクティブ行動の理解促進(知識の伝授)。プロアクティブ行動とは、個人が自分自身や環境に影響を及ぼすような未来志向で変革志向の行動のこと。1年くらいかけて守=基礎を習得する段階/破=自分らしさを出す段階/離=自分ひとりで何でもできる段階、と進めば理想的だ。ただし、上司の理解、サポート、環境への働きかけ=協育は不可欠である。

(3)同期との繋がりや同期意識の醸成も大切。同期の役割は、ストレス発散/物差し/ライバル/インフォーマント(情報源)/仕事サポート、などがある。(4)組織適応の2年目分岐。組織への適応プロセスは、入社1年目よりも2年目が分岐点。新人ストレスからの解放、後輩プレッシャー、可視性の高まりなどの適応課題、“2年目の憂鬱”をうまく乗り越えられないと早期離職につながる。継続的サポートと2年目研修は重要だ。

◎適応エージェントの提供/チーム育成(協育)/環境整備

メンターを付けるのは良い。しかし、誰をメンターにするか、メンターのモチベーションをどう高めその負担をどう取り除くか、他の同僚の育成無関心をどう取り除くか、といった課題がある。

適応エージェントの負担は大きいため、複数人で役割分担をするサポートシェアリングが有益だと考える。また、職場全体で若手を育てるという意識も醸成したい。会社全体での育成カルチャーも重要。社長に人材育成の重要性を理解してもらう、つまりトップを巻きこむ重要性を認識し実践することも人事部の重要な役割だ。

職場内コミュニケーションを活発化させる場作り/職場内の相互学習を促進する職場づくり/相互支援を促進する職場づくり/職場全体で新入社員を育成しようとする育成風土作り……このように、職場をデザインするのは「上司」である。ゆえに、上司をサポートし、上司や魅力的な先輩たちを育てなければならない。

最も重要なオンボーディング施策は以下と考える。
・新入社員を成長させ、定着させたければ、上司を育てよ!
・新入社員を行き来働かせたければ、先輩社員を活き活き働かせよ!

新入社員が憧れる、生き生き働いているロールモデルの多い魅力的な会社を作ることが大切である。

◎アフターコロナの人材育成の要諦

普遍性・重要性があるのは、人間関係/上司/やりがいのある仕事、成長実感を得られる仕事、組織からのサポート、環境整備である。魅力的な会社の条件とはすなわち「生き生き連鎖」を生み出す条件だ。

■課題解決講演(2)

明日から実践できる!
従業員エンゲージメント向上施策とは

ミイダス株式会社
執行役員/CMO
越智 道夫 氏

大学卒業後、日本の化粧品メーカーに新卒で入社するもグローバルな経験を求め退社。その後日本とオーストラリアのロレアルで合計13年間マーケティングに従事した後、ユニリーバでは LUX のシニアブランドマネージャー、そして資生堂ではグローバルHQのブランドマネージャーを歴任。約20年の化粧品業界におけるマーケティングやブランドマネジメント経験の後、レノボ・ジャパン合同会社にて、コンシューマー マーケティング本部長としてLenovoとNECの2つのブランドのマーケティングを統括。
ブランドマネジメントやマーケティングにおいて「企業組織を動かす」必要性を感じ、現在は、HR テック企業のミイダス株式会社にて、現職に就く。国内外の様々な企業で成功や失敗、挫折を繰り返し培った経験と、最先端の HR テックでのソリューションを組み合わせた「活躍人材の採用」や、「成長する組織つくり」、「チームビルディング」などを組み合わせたセミナーを開催。その他、マーケティングやブランディングの講演やコンサルタントとしても活動中。

◎エンゲージメント向上の目的と課題について/現状の従業員エンゲージメントを知る

コロナ禍以降、「はたらきがい」は多様化している。従業員エンゲージメントの低下は、会社の業績や企業価値の低下、採用、離職率にまで影響する。従業員エンゲージメント向上の取り組みを行う上で、(1)調査ノウハウの不足(2)コスト・工数の不足(3)社内協力の不足、の3つの不足が存在する。

3つの不足を解消しながら、効果的なエンゲージメント向上施策を行うステップは、調査ノウハウの不足やコスト不足を補い現状のエンゲージメントを知る/従業員と経営層のギャップを知る施策実行、の3ステップだ。

従来のエンゲージメントサーベイでは、主観と客観が混じった回答になっており、課題が不透明になっている。また、3分の1以上が従業員から課題の必要度を聞いていない。無料で使えるミイダスの「はたらきがいサーベイ」は、先ほどの(1)調査ノウハウの不足(2)コスト・工数の不足、を解決する。高精度で社員のはたらきがいがわかり、課題の優先順位がわかり、しかも無料で使える。

 ◎一般社員と経営層のギャップを知る/
従業員エンゲージメント向上のための上司部下コミュニケーション

 
調査ノウハウの不足を解決するために、まずは一般社員と経営者層の認識のギャップを知らなければならない。解決しないとならない課題の優先順位を抽出するのである。例えば「組織にとって重要だと思う」項目は、一般社員と経営者層とでは大きな意識・温度感の乖離が生まれる。

多くの一般社員がサーベイで自分の意見を伝えられていない(と考えている)。その理由は、「多少の忖度」「回答しても改善や繁栄が感じられない」だ。

会社組織やサーベイに対しての一般社員と経営者層のギャップを減らし、先述の(3)社内協力を促すにはどうするか。例えば「上司が弱みを見せている」と感じる部下の方がエンゲージメントや生産性が高い、と発表している調査がある。ミイダスでは、コンピテンシーを活用して強みや弱みを正しくかつ面白く伝えることができる。自分(管理職)の特徴、強みや弱みをよりしってもらうためのツール「ミイダスラップ」もある。

 従業員満足度や貢献意欲などが数値でわかり、企業のブランディングにも活用でき、社内協力も得られやすくなる「はたらく人ファーストアワード」(朝日新聞社とミイダスの共催)についても注目をいただきたい。

■課題解決講演(3)

戦わない採用「リファラル採用」のすべて

株式会社TalentX
代表取締役社長CEO
鈴木 貴史氏

起業家。日本の『リファラル採用』第一人者。著書『戦わない採用』。大手企業を中心に800社、70万名が利用する採用マーケティングSaaSを運営。2015年、日本の採用の在り方に課題を感じ、TalentXを創業。日本初のリファラル採用サービスMyRefer、採用MAサービスMyTalentをリリース。19年、経済産業省後援「第4回HRテクノロジー大賞」採用部門賞、日本の人事部「HR Award2019」を受賞。21年、東洋経済「すごいベンチャー100」に選出。

人と組織のポテンシャルを解放する社会の創造」「未来のインフラを創出し、HRの歴史を塗り替える」をパーパス/ビジョンとするTalentX。当社はテクノロジー(Myシリーズ)とコンサルティングで持続可能な採用活動を支援するサービスを提供している。Myシリーズが提供する世界観は「Recruiting is Marketing」。

◎人材獲得競争時代における採用市場のトレンド

ご承知のとおり、労働人口の減少に反し、企業の採用ニーズは増加の一途だ。約8割の企業が中途採用未充足。今後さらに採用難易度は上がると想定される。大多数を占める転職潜在層を惹きつける施策が必要だ。

潜在層にアプローチする採用チャネルとして、自社リソースを活用した持続可能型採用=オウンドリクルーティングが有効である。

米国では2000年初期からすでに先行事例が多数ある。例えばAirbnbは、社格や名声、条件以外の部分で差別化を図り採用マーケティングを実践。求人広告や人材紹介ではなく、リファラルやタレントプールを駆使して潜在層にアプローチ。結果、優秀なタレントの獲得に成功している。

◎戦わない採用を実現する「リファラル採用」

リファラル採用とは、信頼できる従業員からの紹介による採用手法。旧来の、経営陣・一部社員による“縁故・コネ採用”(1.0)、社員のリクルーター化による“紹介させられ採用”(2.0)をアップデートした、リファラル採用3.0=“紹介したい仕組みづくり、社員のファン化“を私たちは提唱している。社員もしくはかかわった人たちが、自発的に会社をおすすめしたくなるような関係作りから始まる採用、である。

リファラル採用は優秀な人材をミスマッチなく獲得でき、社員エンゲージメントが高まる効果的な採用手法だ。(1)転職潜在層から人材を獲得(2)採用コスト削減(3)離職率の低下(4)社員エンゲージメントが高くなる、といったメリットがある。

(4)の社員エンゲージメントを(維持するのではなく)高めるためには、理念やバリューの浸透/成長機会/当事者意識といった「動機づけ要因」が特に重要だ。当社が2021年に設立したリファラル採用研究所の調査によれば、全社員採用と組織エンゲージメントには大きな相関があることが立証されている。

リファラル採用活動には、会社のためになる自発的な役割外行動=組織市民行動が促進され、愛着の高い組織文化が創れる、という効用がある。自社を知れば知るほど好きになり、語れば語るほど好きになるスパイラルがリファラル採用の本質的価値だ。コロナ禍後も生産性が高いGAFAやメルカリなどの成長企業は4~5割がリファラル採用。それを通じて文化形成やビジョン浸透を実現し、強固な組織を築いている。

◎リファラル採用3.0の準備・実践

人事は会社の中で最も自社のファンであり、おすすめしたい会社を創るディレクターである。リファラル採用を成功に導く“ゴルフ”=ゴール/ルール/フローの設計を人事部門は行わなければならない。例えば、中長期の定量ゴール設計/適用社員の範囲決め(ルール)/心理的負荷を下げる紹介フロー設計、などだ。

リファラル採用を実施している企業の85%は報酬(インセンティブ)制度を設けている。ただし、高額なインセンティブは母集団形成には効果的だが、被紹介者の質が下がる傾向にある。海外企業では、ボーナス・報酬を、賞品や体験報酬、休暇、チャリティー(寄付)などに設定している例もある。
※My Referを利用したリファラル採用の認知→共感→行動→ファン化の実行事例紹介あり(富士通、博報堂DYなど)。

採用が“企業の競争力”になり、持続可能にファンが増え続ける会社になるようにしたい。企業ブランドに共感した直接応募者が自然と増える/他社とバッティングしない/採用コストを圧縮できる/内部人材のキャリア開発につながる、というメリットを享受するためにもリファラル採用3.0は有用だ。 

従業員がどれだけ仲間集めに対する重要性を認識しているかが、企業の成長を促進、企業カルチャーを強くする。企業のリファラル採用の成功と“(自社を)おすすめしたい文化づくり”のお手伝いをさせていただければ幸いである。

■特別対談

私が社長です。
~雇用を生み出し、従業員を守る、アパホテルの使命~

アパホテル株式会社
取締役社長
元谷 芙美子氏

福井県福井市生まれ。福井県立藤島高等学校卒業後、福井信用金庫に入社。22歳で結婚し、翌1971年、夫の元谷外志雄が興した信金開発(株)=現アパ(株)の取締役に就任する。94年2月にアパホテル(株)の取締役社長に就任。会員制やインターネット予約システムをいち早く導入し、全国規模のホテルチェーンへと成長させる。2006年早稲田大学大学院公共経営研究科修士号を取得し、11年には同博士課程を修了。現在、アパホテル(株)取締役社長をはじめ、アパグループ11社の取締役、日韓文化協会顧問、株式会社SHIFT社外取締役、(株)ティーケーピー社外取締役を務める。また、全国各地からの講演依頼にも精力的に取り組み、地域社会の活性化に努めている。アパホテルネットワークとして全国最大の750ホテル11万4,366室(建築・設計中、海外、FC、アパ直参画ホテルを含む/23年11月14日現在)を展開。年間宿泊数は約2,000万名(23年11月期末見込み)に上る。

フリーアナウンサーの内田まさみ氏をインタビュアーに、「雇用を生み出し、従業員を守る、アパホテルの使命」をテーマに元谷氏との対談が行われた。以下は元谷氏の主題関連の発言抄録。

「昨年CEOにバトンタッチし、創業52年の今年、ホテル業界で初めてサッカー日本代表のJFAナショナルチームパートナー契約も締結することができた。コロナ禍を乗り越え、おかげさまで事業はほぼ順調に拡大してきた。建物の耐震基準不適合の問題などもあったが、『人間万事塞翁が馬』を座右の銘に、蛮勇をふるってきた。いくつかの試練を乗り越えてさらにいい会社になれたとし、自分も成長できたかなと思う。運にも恵まれた」

「コロナ禍においてはホテルの部屋を療養用に多数貸し出した。リーディングカンパニーとして、こういう時にこそ力になりたいと考えて行政の要請には即断即決し、2万5千室を確保した。お役に立ててよかった。新たにアプリも開発し、インパクトある価格でのキャンペーンを実施し、若い新規のお客様も26万人以上獲得できた。これは、優秀な人材が当社に集まっていたからこそできたことでもある」

「私たちは2019年末からのコロナ禍でも1日も休業せず、毎日全てのホテルを開けていた。必ず復調する日はくる、優秀な人は必要、と信じて雇用も守った。よって、インバウンド客なども増えて平均稼働率90%を超える日も多いビジネスを現在、実現できている。コロナ禍の間は単価や諸条件は厳しかったかもしれないが、休業はせずにさらに新規で50棟以上のホテルも開業していったのでお取引企業との仕事も途絶えることがなかった」

「現在の従業員は6000人台で、新卒採用では毎年2万人を超える応募をいただき、来年は500人程度は採用したいと考えている。清潔感があり、お客様を癒やすことのできる明るくハキハキしている人を採りたい。DX時代でもコミュニケーション力は大切だ。CEOを含めた私たち経営陣も、従業員の名前は極力覚えるようにし、コミュニケーションを非常に重視している。買収したホテルの従業員や料飲部門出身の従業員からも、最近は執行役員や支配人、部門責任者が輩出している。頑張る機会は平等にわけへだてなく与えている。ホテルは人が全てなので」

「組織作り、経営にあたっては『社長は言いたいことは腹蔵なく全て言う。ただし、陰では言わない』ことを心がけている。相手のためを思っての直言とし、裏表をなくし、信頼を得るようにしたい。お節介かもしれないけれど、会社での“親”として、従業員の体調面から心配している。トップ、経営者である自分は失敗できないが、従業員は成長するための失敗はもちろんOK。愛情をもって見守る」

「会社の使命・社長の根幹は、売上を立て、雇用を創出し守って利益を出して納税の義務を果たすことだ。少しでも各地域から多くの優秀な人を採用して、縁あって来てくれた人に『APAに入って良かった』と思ってもらえるようにしたい。健康第一で従業員も私も今後も頑張っていけるといい。」

「リーダーは、社長は、強くなければならない。社長が1人の強いライオンで部下が100人のヒツジだとすると、優しいヒツジをライオンに変えられるのが社長。トップが背中を見せて率先垂範し頑張らないと、部下も弱くなってしまう。子供の頃に大病と地震災害を経て厄落としをして生き残っているので、何か使命がある、無駄死にはできないと思っている」

「私の実力以上に運良くいいホテルにでき、このほど代替わりもできた。後継者の二人が喜んで後を継いでくれたので、身体に気をつけて、兄弟仲良く、何千人もいる社員さんのためにも思う存分に経営してさらにいいホテルグループにしていってほしいと思う」

■特別講演(2)

社員からも選ばれるSARAYAを目指して
~日本で一番大切にしたい会社が取り組む人材育成と職場づくり~

サラヤ株式会社
総務人事本部 取締役本部長
村井 雅子氏

2002年東京サラヤ(株)にパートタイマーとして入社後、04年正社員へ雇用変更。その後もキャリアを重ね17年にサラヤ(株)へ転籍。19年に取締役総務人事本部長として現在に至る。自身の育児・介護経験から、両立支援などの働きやすい職場づくりに取組み、ダイバーシティ・女性活躍推進に尽力。当社の持続的発展を支える人材活用の仕組みを整備し、社員からも選ばれる企業を目指す。23年3月大阪商工会議所主催の第1回活躍する女性リーダー表彰「ブルーローズ賞」を受賞。サラヤ(株)・東京サラヤ(株)は人に優しい経営が評価され、23年3月「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の経済産業大臣賞を受賞。

三重県熊野の清流、それはサラヤの原点。そして変わることのないサラヤの経営姿勢だ。無理なく、無駄なく、汚れなく。当社はこれからも清流のような生き方を目指していく。家庭用及び業務用洗浄剤・消毒剤・うがい薬などの衛生用品と薬液供給機器などの開発・製造・販売を主な事業としている。グループ全体の従業員は約2300人で、世界約30カ国で事業を展開している。

手洗いと同時に殺菌・消毒ができる薬用せっけん液を1952年に日本で初めて開発・販売したのが創業の原点。戦後間もない日本において、当時流行していた赤痢から多くの人を守るため、予防のための「手洗い」を啓発し日本に広めた。促進のために。その後うがい器なども発売し、排水がすばやく微生物に分解され環境への負荷が少ない植物系の食器洗剤「ヤシノミ洗剤」も業界でいち早く発売しロングセラーとなっている。2004年からは、その原料のひとつであるパーム油の原産国であるマレーシア・ボルネオ島で、「ボルネオ環境保全プロジェクト」の取り組みを行っている。

速乾性のアルコール手指消毒剤や各種医療機器等の洗浄・消毒液なども発売し、医療現場から官公庁・学校得・企業など幅広い場面で衛生面をサポートする。2010年からはウガンダで石けんを使った正しい手洗いの普及を目指す「100万人の手洗いプロジェクト」を開始。なお、100万人の手洗いプロジェクトの活動資金として、日本国内で販売している家庭用衛生商品の売上の1%を日本ユニセフ協会に寄付し活動にあてている。

コロナ禍にあっては、政府の要請に応え24時間体制でアルコール消毒液などを増産したほか、カメラ付き顔認証手指消毒ディスペンサーシステムを製造発売。さまざまな社会貢献を果たし、このような多くの経済・社会貢献活動が「日本で一番大切にしたい会社」大賞(経済産業大臣賞)の受賞につながったと考える。

元々のサラヤの考え方がSDGsであった。ただし、私たちは決してボランティア企業ではない。二宮尊徳は「経済無き道徳は寝言であり、道徳なき経済は退廃である。」という言葉を残している。渋沢栄一は「仁義道徳(Humanity and Justice)正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することはできぬ。利用厚生(Business)と仁義道徳(Justice)の結合を目指す」と語っている。社会課題をビジネスを通じて解決するのがサラヤである。

当社は10年以上前から労働人口減少に伴う課題を認識し、優秀な人材の確保や育成、長く働いてもらう試みを行ってきた。労働人口減少へのサラヤの取り組みは以下。

 順に例を挙げると、(1)ダイバーシティ推進では現在女性上級(部長職)管理職が7名、女性管理職割合は13%。外国人は現在19カ国の224人が働いている。障がい者雇用面では特例子会社「The Links」を設立し促進している。(2)両立支援では、育児や介護の短時間勤務制度や時差出勤制度の制定はもちろん、本社域・関東工場・伊賀工場には保育所を開設している。従業員を最も大切な経営資源と位置づけているのだ。 

次に(3)健康経営では、人として豊かな自己の能力や個性を実現できるWell-beingな状態へと導くようにしている。身体の健康をサポートするために感染対策商品の配布を行ったり、心の健康をサポートするためにストレスマネジメントを実施。3月9日から感謝のメッセージを送り合う「サンキューしよう」活動など、称賛しあえる風土作りも行っている。さらにウォーキングイベントや健康セミナー、口腔ケアイベントなどを実施して生活習慣の改善サポートも行っている。

(4)採用・教育では、自らの頭で考え主体的に行動する人材を育成することを目指している。採用段階では、「心を温めて、『だからサラヤに決める!』と言える状態にすることが必要」と考え、採用マーケティングに基づいた選考フロー(候補者の感情変化に基づいた先行設計)を導入し効果を得た。なお、入社後の教育研修のメニューも今年から職位階層別に一段と充実させている。

社員からも選ばれるSARAYAを目指して。サラヤは、世界の衛生・環境・健康の向上に貢献する

2023年9月15日(金) オンラインLIVE配信

source : 文藝春秋 メディア事業局