対米従属からの脱却を目指したのは誰か
戦後70年の節目に訪米した安倍首相以来、9年ぶりに国賓待遇で訪米した岸田首相は、4月10日(日本時間11日)にバイデン大統領と会談し、翌11日にはアメリカ議会上下両院合同会議で演説した。
首脳会談後の共同記者会見で岸田首相は「日米がグローバルなパートナーとして真価を発揮すべきだ」と訴え、バイデン大統領は「同盟発足以来、最も重要なアップグレードだ」と述べた。またアメリカ議会での演説で、岸田首相は日米連携のかけがえのなさと日本の役割を強調し、十数回のスタンディング・オベーションを受けたようだ。「日本はすでにアメリカと肩を組んで共に立ち上がっている。日本はアメリカと共にある」と語りかけるくだりで議場は万雷の拍手に包まれたとの報道があったが、続けて岸田首相は「日本は長い年月をかけて変わってきた。第二次世界大戦の荒廃から立ち直った控えめな同盟国から、外の世界に目を向け、強く関与した同盟国へと自らを変革してきた」と、国家としての自己認識を明かしている。
これをあえて分析すれば、日米同盟を基軸にしながらも、日中関係重視などアジアの一員としての立場をまがりなりにも堅持して外交バランスを取ってきた戦後日本のあり方から、従米構造を強化して防衛費を倍増し敵基地攻撃能力を保有する時代の安全保障への転換を指し示しているのであろう。
2015年の訪米時、安倍首相は世界に貢献する日米同盟の意義を理念として示したが、岸田首相はそれを具体的に推し進め、自衛隊と在日米軍を統合する指揮統制システム構築にまで踏み込んだ。統合と言っても、それは日米の力関係からして米国主導以外ではあり得ない。
現状において岸田首相が日米共通の脅威とみなすのは中国、ロシア、北朝鮮である。時代背景や世界情勢が異なるので単純に比較はできないにせよ、本連載で数回にわたって描いている石橋湛山がかつて探ろうとした「日中米ソ平和同盟」といった独自の外交姿勢からの乖離は如実であると言わなければならない。
岸田首相の自発的隷従
裏金問題などに始まる国内での強い政治不信を払拭する効果をも狙ったと思われるが、アメリカに赴き、アメリカへの従属を良きものとして過剰に吐露する岸田首相の言動を見ていると、16世紀のフランスで、独裁者を支えてしまう民衆の心理を見抜いた、モンテーニュの親友だった人文主義者、エティエンヌ・ド・ラ・ボエシの「自発的隷従」(『自発的隷従論』、西谷修監修・山上浩嗣訳、ちくま学芸文庫、2013年)という概念を、国家間の力関係にも応用してみたくなる。
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