岸田首相は池田勇人の保守哲学を受け継がなかった
2024(令和6)年は、元日から最大震度7を観測した能登半島地震が北陸地方を襲って多くの人々が甚大な被害に遭い、災害への対峙という意味での日本社会の脆弱な側面があらわになった。また、羽田空港でJAL機が海上保安庁機と衝突して炎上し、事故とその原因究明や再発防止、また組織と危機対応能力などの問題が改めて浮上した。平穏ならざる年明けと言うしかない。
そして、政界をとりまく状況に目を転じれば、自民党の裏金問題などに発する政治不信がくすぶり続けて深刻の度を増している。
唐突な物言いに感じられるかも知れないが、かくのごとき危機が迫る時代にこそ、「真正保守の思想」を深めておく必要があるのではないだろうか。
これは本連載の一つの通奏低音と言っていいのだが、真正の保守は、危機にあって、一足飛びのラジカルな革命を求めたりはしない。極端な左派は時代の転換点で犠牲を顧みずに急激な革命を志向するものだが、真正保守は、人間的な価値観を大切にして漸次(ぜんじ)の変革を行い、国家と社会の落ち着きを願う。
今回も引き続き、近現代史の地下水脈をたどって、あり得べき保守政治を望見しながら、まずは現代政治の惨憺たるありさまを凝視してみたい。歴史的な知恵に裏打ちされた地道な変革のためにである。
検察は裏金還流システムの運用において特に悪質と見ていた安倍派幹部の立件を見送ったが、岸田派の元会計責任者が立件されそうだという報道を受けて、岸田首相は岸田派、つまり宏池会を解散する意向を示した。これに二階派、安倍派も従う流れが生じると、派閥の解散でこの問題の幕を引くのはごまかしであり、裏金の実態や使途を詳細に検証すべきだとの当然の批判が起こった。
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source : 文藝春秋 2024年3月号