■企画趣旨
テクノロジーの進歩は、新しい製品やサービスの創出、生産プロセスの改善、市場への新たなアクセス手段などをもたらし、ビジネス環境に大きな変化をもたらしています。また、国際市場での競争の激化や消費者の嗜好や期待の多様化、レギュレーション(規制)の変更など、変化に適応した経営が求められています。こうしたビジネス環境の急激な変化に対応するためには、将来の変化や課題を予測し、柔軟に対応できる組織運営、データ分析精度の向上など、戦略的な意思決定を迅速に行うことが不可欠となっています。
しかしながら、不確実な時代の中で先頭に立ってビジネスをリードしていくことにはリスクも付きまとうため、リスク管理戦略を適切に構築し、変動する状況に対処する必要があります。
本カンファレンスでは「経営課題 総点検2024」をテーマに、不確実な時代の中、経営課題を先送りすることなく対処し、あるべき姿の実現に向け一歩先を行く経営を推進していくための実践法について、課題の認識、問題提起、解決に向けた行動変容などの視点から考察した。
■基調講演
“経営”の不条理
ダイナミック・ケイパビリティ ~変化させる力の本質~
慶應義塾大学商学部 名誉教授
城西大学 教授
菊澤 研宗氏
1957年生まれ。86年慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程修了。防衛大学校教授、中央大学大学院国際会計研究科教授を経て現職。その間、ニューヨーク大学スターン経営大学院客員研究員(1年間)、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員(2年間)として在外研究に従事。専門領域は経営学、組織の経済学、比較コーポレート・ガバナンス論、ダイナミック・ケイパビリティ論。
真面目な日本企業は成功すると、怠けることなくより努力して極めようとする。この成功後の真面目な努力はともすると硬直化につながり、日本企業を失敗に導くことになる。変動的で、不確実で、複雑で、あいまいなVUCAの時代。「日本的真面目さの罠」に陥るという日本的な不条理をいかに企業は回避できるか。これについて、お話してみたい。
◎ビジネスモデル(経営)の不条理
ビジネスモデル(BM)とは、企業が顧客に価値を提供し、その価値に対して顧客に支払いを促し、その支払いを収益として獲得する仕組み、方法、パターンのことである。BMに基づいて活動すると事業活動はより体系化、効率化され、短期的に収益を得ることができる。
ところが日本企業の場合、長期的な観点に立ってBMを徹底的に洗練化し、時間をかけて多額の投資を行って完成させる傾向がある。しかし環境は変化するので、どんなBMでもやがて環境の変化に対応できなくなる。それゆえ、新しいBMを探索し刷新しなければならない。しかし、日本企業の場合、時間をかけて真面目に完成させたビジネスモデルを変革しようとすると多くの反対勢力が出現し、その説得には膨大な交渉取引コストが発生する。
このコストがあまりにも大きい場合、非効率的な現状を維持した方が合理的となる。しかし、変化する環境の中で現状を維持することは退化を意味する。合理的に退化し淘汰される“ゆでガエル現象”である。真面目な日本企業は、今日、このように合理的に退化し失敗するという「経営の不条理」に陥りやすい。
◎日本的な不条理の事例
日本陸軍は、日露戦争において乃木希典指揮のもと203高地の戦いで白兵突撃を繰り返し、奇跡的にロシアに勝利した。その後、陸軍は長い時間をかけて真面目に「白兵銃剣突撃」という戦術モデルを完成させた。
しかし、約35年後の太平洋戦争で米軍と戦ったとき、その戦術モデルの非効率性に気づいた。実際には、その前のノモンハン事変で、第1次大戦を経験しすでに近代化していたソ連軍に敗れたとき、現場の将兵たちはその戦術モデルの非効率性を訴えていた。しかし、白兵突撃戦法の象徴である乃木大将を否定できず、またその戦法をめぐる利害関係者があまりにも多く存在したため、陸軍上層部は戦術モデルを変革できなかった。こうして陸軍は旧来の非効率的なモデルに固執し、合理的に退化し失敗するという不条理に陥ったのである。
日本海軍も同様の不条理に陥った。日露戦争で東郷平八郎指揮のもと日本海海戦で奇跡の大勝利を得た。その後も海軍は真面目に訓練を重ね、戦艦武蔵や大和の建造などに多額の投資を行い「大艦巨砲主義」という戦術モデルを完成させた。ところが、太平洋戦争時は航空機と空母の時代となっており、海軍もこれを認識していた。しかし、既存の戦術モデルを変革できなかった。
繰り返すが、既存の戦術モデルを変革すれば長年にわたって行った多額の投資はすべて回収できない埋没コストになる。また、そのモデルを支持する利害関係者も多く、彼らを説得する交渉取引コストも高かった。こうして環境が大きく変化していたにも関わらず非効率な戦術モデルに固執し、海軍もまた合理的に退化し失敗するという不条理に陥ったのである。
こうした事例は、液晶のBMに固執し失敗したシャープのように、現代の日本企業にも多々見られる。現代はネット社会であり、ハブになっている人物・会社・機関を通してスケールフリーに情報が伝達され、予期せぬ変化が発生する。また、行き過ぎた株主資本主義が自然を破壊したため、各地で自然災害が多発し、さまざまな国や地域で工場が突然休止する。さらに、感染症・戦争勃発もあり、グローバルサプライチェーンが、突然、無機能化する。
まさに、VUCAの時代が到来し、変化が常態化している。このような状況では、長期的観点から時間をかけて一つの成功的モデルを精緻化し、安定化させようとする真面目な日本企業は合理的に退化しやすく、合理的に失敗する可能性が高いといえる。
◎戦略的ダイナミック・ケイパビリティ論
現代のような変化が常態化する世界で企業に求められるのは、環境の変化を感知し、そこに機会を捕捉し、企業内外の既存の資産を再構築して環境の変化に適応する外向きの進化適合力である。それは、既存のBM自体を刷新する能力であり、付加価値(売上高)を高め、生産性を追求する能力でもある。このような能力を、UCバークレーのD.ティース教授は「ダイナミック・ケイパビリティ(自己変革能力)」と呼ぶ。この能力は、各部署、事業部間、企業間関係をデジタル空間上で体系的に結合するような高次のデジタル化(デジタライゼーション)によって高められる能力である。
これに対して、既存のBMのもとで無駄を排除し、効率性を高め、利益最大化しようとする内向きの技能適合力は「オーディナリー・ケイパビリティ(通常能力)」と呼ばれる。この能力は、各部署でのPDF化やオンライン会議などの低次のデジタル化(デジタイゼーション)によって高められる能力である。
企業は、これら2つのケイパビリティの相互作用によって持続的に成長することができる。下の図において、右上がりの点線は時間とともに変化する環境、つまり顧客の要求水準やCSRやSDGsなどの社会性の要求水準の高まりを意味するものとしよう。
図のように、環境は時間とともに常に変化しているので、既存のビジネスモデルのもとに企業が外部環境の変化を無視してオーディナリー・ケイパビリティによって企業内部の業務だけを効率化すれば、時間とともに環境との間にズレが生じる。それゆえ、企業は徐々に環境との乖離が大きくなり、最終的に淘汰されることになるだろう。
ここで、企業はより高次の能力であるダイナミック・ケイパビリティのもとに、図のように、既存のビジネスモデルと環境とのズレを感知し、そこに新しい機会を捕捉し、そして既存の資産や技術を再構築・再配置して環境とのズレをなくすように自己変容する必要がある。つまり、ビジネスモデルの刷新を行う必要がある。こうして、新しいビジネスモデルのもとに、再び企業はオーディナリー・ケイパビリティによって業務の効率化を進め、発展していくことになる。
しかし、ダイナミック・ケイパビリティによる自己変革はそれほど簡単ではない。というのも、先述のように既存のBMを刷新するには抵抗勢力を説得する必要があり、そのコストがあまりにも大きい場合、変化・変容しないほうが合理的となるからである。
ところが、現状を維持し続けると、企業には別のコストが発生する。つまり、既存の資産をめぐって多大な機会損失・逸失利益が発生する。したがって、自己変革によって発生するコストよりも大きなメリットを生み出すように、ダイナミック・ケイパビリティによって既存の資産を再構築・再配置・再結合し、機会損失を大きく節約する必要がある。
このような既存の資産の再構成・再構築に関して、ティースやP.F.ドラッカーは「オーケストレーション」という用語を用いる。それは、既存の資産を再構成・再配置・再結合することによって、単なる個の総和以上の全体性を生み出すことである。
そして、このようなオーケストレーションには少なくとも3つの方法がある。(1)相互に無関係な要素間のオーケストレーション(元素周期表のような全体像を描き、個々の事業をその中に位置づけること) (2)相互に補完的な要素間のオーケストレーション(EV車と電気スタンドを結合させて個の総和以上の全体を生み出すこと)(3)相互に対立的な要素間のオーケストレーション(ビールと発泡酒を対立させつつより大きな全体としてビール消費者を増加させる)。
長期的観点から時間をかけてビジネスモデルを完成させていく真面目な日本企業に必要なのは、例えば上記の(3)のあえて既存事業とカニバリゼーション(共食い)を起こすような新しいBMを積極的に受け入れつつ古いものを排除し、全体としてホリスティックに持続的に成長していくことである。自動車のモデルチェンジのように、新しいものを取り入れながら同時に古いものを徐々に排除し、全体として「動的平衡」を保ちつつ事業間をオーケストレーションする必要がある。
◎人的資本のダイナミック・ケイパビリティ・マネジメント
以上のような戦略的なダイナミック・ケイパビリティを発揮させるには、人的資本経営に関してもダイナミック・ケイパビリティを発揮する必要がある。環境の変化が発生した場合、ダイナミック・ケイパビリティのもとに市場ベースと組織ベースを融合させたハイブリッドベースの人的資本経営を展開する必要がある。
つまり、変化に対応するためには、まず企業は組織ベースで内部労働流動性を活用して環境変化に対応する。もし十分に対応できなければ、次に市場ベースで外部労働市場を通して有用な人材を雇用し単なる個の総和以上の全体を生み出す人的資本経営を展開する必要がある。
◎ダイナミック・ケイパビリティと日本企業との相性
以上のようなダイナミック・ケイパビリティ論を特徴付けているのは、ホリスティックな全体論思考である。ドラッカーは、日本人が描く水墨画を分析し、全体性を知覚し、余白をも利用する日本人のホリスティックな能力を高く評価する。この意味で、日本企業とダイナミック・ケイパビリティの相性はいいといえる。
ドラッカーによると、日本の「大化の改新」は中国文化の日本化であり、「明治維新」は西洋文化の日本化であったという。つまり、最初に日本という全体があり、その全体の中に個々の外国文化を位置づけたり、相互に補完したり、対立させたりして、すべての文化をより大きな全体として日本化してきた歴史だという。
結語(まとめ)。
以上、変化が常態化しているVUCAの時代に、真面目な日本企業は合理的に退化し、合理的に失敗する可能性が高い。しかし、日本企業はダイナミック・ケイパビリティと相性がいいことを自覚し、その能力を積極的に活用し自己変革すれば、合理的退化・合理的失敗という不条理は回避でき、持続的に進化することができる。日本企業に宿るダイナミック・ケイパビリティは、まさに「進化して生き続ける力」となるだろう。
■課題解決講演(1)
新時代の経営戦略「危機と転機」
~2025年の崖下に何があるのか~
株式会社ログラス
経営戦略室グロースチーム
営業企画責任者 / 創業メンバー
矢納 弘貴氏
明治大学法学部卒業後、2012年株式会社セディナ(現:SMBCファイナンスサービス株式会社)へ入社。コールセンター、債権回収業務を経て、経営企画本部予算グループへ異動。15年よりエン・ジャパン株式会社に転職し、予算編成などの経営企画領域を中心に従事。18年4月からは同グループ子会社へ出向。経営企画・人事領域を担うコーポレート組織と新規事業企画に奔走。20年より株式会社ログラスにてCSの立ち上げを担当。現在は、BizDevにて、経営戦略の立案に従事。
2025年の崖が迫っている。25年の年間経済損失は12兆円と現在の3倍に拡大、レガシーな仕組みの維持コストが拡大し、成長投資が不可能になる。例えば、25年~30年には、基幹システムの稼働時間が21年間以上になる企業の割合が60%となり、不足するIT人材の数は約43万人になる(経済産業省の資料より)。
老朽化し継ぎはぎになった基幹系システムがデータのブラックボックス化をもたらす、多極分散化した組織内で生まれたナレッジを吸い上げ統合するためのインフラが存在しない……、といったことが実際に起き始めている。
本来、経営判断は適切な根拠・裏付けに基づき論理的に行われるべきだ。しかし、急速に進む社会変化に、従来型の大きなPDCAサイクルでは意志決定に必要な裏付けを必要な速度・質で提供できない。VUCAの時代、政治/経済/社会/技術、そして社内のさまざまな要因・課題に対応し、意志決定を行うこと=経営への負荷は非常に高まっている。
23年の人手不足倒産は累計で前年比86%増となるなど、特定業界=特に建設と物流での人手不足の傾向がより顕著になっている(帝国データバンクの資料より)。
物流業界では“運行効率の向上”と“骨太な収益体制”の確立が喫緊の課題だ。同業界では、予実管理の生産性を改善するクラウド経営管理システム「Loglass」で各種経営データを分析・活用し、(1)問題の根本原因への対策(2)設備投資・システム投資を捻出するための発生コスト分析(3)賃上げの交渉材料可視化、を行っている事例がある。
建設業界では“IT化による効率化”と“案件単位での精緻な利益体制の移行”が急務だ。実例として、(1)大枠管理していた事業計画の統合管理を可能にするIT化推進 (2)案件別の収支を12カ月を超える期間で可視化。収益性の動向をモニタリング(3)プロジェクト・取引先・業務別の収支管理を、いずれもLoglass経営管理で行っている企業がある。
VUCAの時代においては、創造的な業務の時間を捻出し付加価値を拡大し、デジタル技術を活用した働き方改革を進めて業務の効率化を超えた「業務の高度化」を進めるべき。また、そのための投資を行うべきである。データ活用のステップは、経営管理“業務効率化”⇒分析の“多角化”⇒経営管理全体の“高度化”実現(全社的な経営意識を高める/不確実で急速な事象に即応)となる。
Loglass経営管理は集める/統合する/可視化する、の3つに特化したソリューション。経営判断に必要な予算や実績、そして各部から上がってくるありとあらゆるデータベースの情報を一元管理し分析することが可能だ(※動画あり)。
経営データの大半は未だにExcel等の表計算ソフトデータから転記・加工されているという現実がある。Loglass経営管理を利用することでわずかな情報から分析の最大化へつなげることができる。経営データの断絶を解消し、意志決定の革新を実現するDXのラスト・ワンピースなのである。
■特別講演(1)
“不確実な時代”に求められるリーダーシップ
~ 100年に一度の大変革に挑む自動車産業を事例にして ~
株式会社INCJ
代表取締役会長/CEO
志賀 俊之氏
和歌山市生まれ、大阪府立大学卒業後、1976年日産自動車に入社。主にアジア営業を担当し、91年から約6年インドネシアに駐在。99年ルノーとのアライアンス締結に関わり、企画室長及びアライアンス推進室長を兼務。現場とのパイプ役として、日産リバイバルプランの立案・実行に参画し、2000年46歳で常務執行役員に抜擢された。新興市場、特に中国進出で成果を上げ、05年4月から13年11月代表取締役副会長に就任するまで、最高執行責任者(COO)を務めた。15年6月官民ファンド株式会社産業革新機構(現INCJ)代表取締役会長に就任し、現在に至る。INCJでは、新しい技術やビジネスモデルを提案するスタートアップ企業を積極的に支援し、オープンイノベーションを通じて、新しい産業の創出・育成を目指している。
自動車産業は100年に一度の大変革期に突入した。CASE=Connected/Autonomous(自動運転)/Shared/Electrification(電動化)はどんなモビリティ社会を創り出すだろうか? CASEはGX(Green Transformation、脱炭素)とDX(IoT/Big Data/AI)の融合によって生まれた。自動車産業における脱炭素の取り組みは進んでおり、2035年には内燃機関のみ搭載している自動車は販売禁止、というレギュレーション(目標)で世界はほぼ統一されている。
グローバルでのEV(電気自動車)シェアは年々増加し、特に欧州・中国は2027年に5割に近づく。米国でもEVシフトは高まっており、日韓のみがEV普及で大きく遅れをとっている。2050年には道路を走る全てのクルマがゼロエミッション(EV&FCV※)と予想する。
※EV=Pure EV(ここではハイブリッドを含まない電気自動車)、FCV=Fuel Cell Vehicle、燃料電池車
EV化=GX/DXは以下のような変革をもたらす。クルマからの排出ガスはゼロに/クルマが余剰電力を蓄電し再生エネルギーを拡張/自動運転、Connectedと高い親和性/シームレス移動。しかし、伝統的自動車メーカーは先ほどの菊澤先生の講演でもあったように “経営の不条理”的悩みを抱えている。例えば、EVシフトは本物か?/EVが脱炭素の解決策になるのか?/EVでは利益が出せない/EV化は日本自動車産業の崩壊につながりかねない、などだ。
EVシフトはOTA(Over The Air)とSDV(Software Defined Vehicle)によって新たな顧客価値を生み出す。サービス主導のデジタルモビリティ化である。OTA/SDVでは(1)クルマがスマホになる(ウエラブルIOTデバイスに)(2)不具合がリモートで修理される(アフターサービスが変わる)(3)クルマの性能が更新される(中古車価格が下がらない)、といった変革が起きる。
国内EVの出遅れ要因は、GXとDXが同時に到来し、産業が大きく変化したにもかかわらずそれについていけていないためでもある。自動車業界は今後の収益モデルとしてOTAを通じたソフトウエアアップデートでの新価値提供(例=自動運転やエンターテインメント)を行い、産業構造の変化に適応していかなければならない。GXとDXにより自動車(産業)は「最高の体験を提供する空間」へ転換するのだ。
ただし、伝統的自動車メーカーはここでも懊悩を抱える。例えば、クルマの価値はドライビングプレジャー、“クルマ屋のEV”に拘りたい/ソフトウエアに強みを持たない。同じ土俵で戦うのは不利/OTAはセキュリティやバリューチェンの面で課題が多い、などだ。
しかし、従来は自動車会社が産業の主導権を握って儲かる構造だったが、これからは下記スライドのようにGAFAのようなプラットフォーマーがモビリティーライフを支配するようになるだろう。
大部分の車がシェアされ、車の稼働率は上がる。共有による需要減、販売台数の減少が起こる。MaaS(Mobility as a Service)が進み、DXとGXにより、必要な時に必要な物が提供される世界=ムダのないシェアリングエコノミーが実現する。大量生産・大量廃棄がなくなり、高付加価値で適量へ、となる。
自動車産業はもはや成長産業ではない(所有からシェアへ)/車の技術が変わる(内燃機関から電動化へ、ハードウェアからソフトウェア・サービスへ)/産業構造が変わる(製造産業からモビリティサービス産業へ)。この3つの変化は肝に銘じておきたい。これからの経営は、売上至上主義から高付加価値化へ舵を切るべきだ。深化と探索 両利きの経営=人的投資、開発投資に注力、オープンイノベーション/改善と変革 両利きの経営=風通しが良く、活力のある職場、トップの強いリーダーシップ、が重要である。
“不確実な時代”に求められるリーダーシップは、時代を読む力/時代に先回りする力/時代を創る力/時代に適応する力、である。以下の5つで時代を創る力を磨きたい。
大量生産から個別化・地域化への時代に変わる。産業革命は人々の生活を豊かにしたが、同時に環境問題や格差社会を生んだ。第四次産業革命=DX(IoT/Big Data/AI)は個別化・地域化を推進する。
産業の新潮流として以下の3つを掲げ、まとめとしたい。
・モノの販売からコト(体験価値)の提供へ。「サービタイゼーション」
・大量生産から受注生産へ。「パーソナライゼーション」
・グローバル化から地域重視へ。「リーゾナライゼーション」
■課題解決講演(2)
大企業のDXを加速!
「デジタルの民主化」で推進する企業変革
株式会社ドリーム・アーツ マーケティング本部
セールスイネーブルメントグループ
長濱 美優氏
2019年3月熊本大学法学部卒業後、新卒で株式会社ドリーム・アーツに入社。入社当初から携わった小田急電鉄のポータル刷新プロジェクトの経験を活かし大企業向けデジタル化クラウド「SmartDB」のカスタマーサクセスチームの立ち上げに従事。20年より住友不動産・THKなど大企業のエンゲージメントリードを担当。「デジタルの民主化」実現を目指し、技術面だけでなく、体制や運用の面からも支援を行う。常にカスタマーサクセスの視点でユーザ企業の成果・成功を意識したセールス活動を実施しており、現在はより多くのユーザ企業とともに成功体験を積み重ねられるよう、セールスの仕組み化を中心に日々邁進中。
「協創する喜びにあふれる人組織と社会の発展に貢献する」これが当社のミッション。デジタルの民主化で 大企業が変わる ニッポンが変わる、と訴求し、全社の業務改革を支援するデジタル基盤「SnartDB(スマートデービー)」をさまざまな企業に提供してきた。
DXに必要なことは以下の3つ。(1)自社プロダクト/サービスのデジタル化(2)ビジネスモデルのアップデート(サブスクリプションなど顧客との長期関係性を育むモデル)(3)業務プロセスのデジタル化、である。(1)(2)はひとえにトライアル&エラーの世界であり、ITコンサル/システムインテグレーターとの協業領域。そして、(3)も軽視できない同時に取り組むべき重要課題だ。
現場、システム部門ともに多くの課題を抱える。その解決策が「デジタルの民主化」だ。まず、非デジタル人材のデジタル人材化。最も業務に精通する現場部門による“市民開発”で変革の成功体験を通した自信と確信が得られる。
次に、旧態依然としたIT産業構造の改革。手法はアジャイル型に、体制は現場部門参画の内製体制に、慣行は協創パートナー型サービス提供にそれぞれ変える。「デジタルの民主化」によってオンプレミス時代のウォーターフォール型システムから脱却したい。SaaS型ノーコートツールのSmartDBによって、大企業の業務デジタライゼーションは、柔軟で利用しながら育てていくスパイラルアップ型の業務プロセスとして劇的に変革される。
大企業の業務デジタル化クラウドSmartDBは、あらゆる業務デジタル化をノーコードで実現するための高度な機能を持つ。フォーム作成(入力情報を標準化)/ワークフロー(高度なプロセスに対応)/Webデータベース(業務データ管理・分析)/コミュニケーション(活発なコラボが生まれる)の4つである。※動画デモあり
高度なワークフローを標準機能で備え、業務の流れそのものをまるごとデジタル化できる。目指すべきは、一部ではなくバック~ミドル~フロントまでの業務プロセス全体のデジタル化だ。ここでは、コクヨ、応用地質、ダスキンの事例を紹介した。
業務のデジタル化においては、各工程の成果物や承認証跡の管理まで業務プロセス全体をデジタル化する「ケースマネジメント」という考え方が重要だ。ケースマネジメントで実現する業務の自動化イメージ=新規取引先追加~契約書確認~契約までを詳しく説明した。
また、購買に必要な申請~発注~管理のプロセスもSmartDBにより一貫して自動化することができる。デジタイズやデジタライズの先に、自動処理やローコード開発などの付加価値を生むデジタル活用があるのだ。
フォーム作成機能など業務デジタル化に求められる4機能をノーコードで可能にし、外部システムとの連携も充実。確実なサクセスに導くオンボード支援も可能なSmartDBは、「デジタルの民主化」を実現する。
■課題解決講演(3)
人手不足時代、サービス業・多拠点ビジネスの
組織と経営課題の乗り越え方
ClipLine株式会社
取締役COO
金海 憲男氏
日本航空にて整備部門における予算策定・管理業務、エンジニア職等に従事後、ジェネックスパートナーズに参画。コンサルタントとして様々な業界において、クライアントの内部に入り込むハンズオン型での支援においても業務改革、マーケティング、新商品開発等で多数の財務成果を創出。ClipLineではCOOとしてビジネスサイド全般を統括。大阪大学基礎工学部卒業、同大学院基礎工学研究科修了。
当社のミッションは『「できる」をふやす』。人の手によるサービスや、人の顔が見えるサービスの現場で「できる」をふやすプラットフォームを提供している。サービス業・多拠点ビジネスでは、本部の意図が現場に伝わらず伝言ゲーム化/ミドル層に情報が集まりボトルネックになる=“ピラミッドと砂時計構造”といった状況に陥り、売上・顧客体験・従業員満足度などのバラツキが多くなることが多い。店舗・拠点間のバラツキを押さえ、全体的に底上げすることが経営的なインパクトを生む。
当社が提供するのが、サービス業を中心とした他店舗・多拠点ビジネスの経営課題の可視化から解決策の実行までを一気通貫してサポートする利益向上のためのプラットフォーム「ABILI」。多拠点ビジネス特化型経営ダッシュボードのABILI Board/動画型実行システムのABILI Clip/顧客満足度調査・アンケートツールのABILI Voice/コンテンツ制作・施策実行支援のABILI Partnerなどを用意している。
◎人手不足時代に考えるべき組織と経営の課題の乗り越え方
人手不足の一方でマーケットは縮小、人口は減少。同じことをやっていてはビジネスで勝てない。デジタルによる人の仕事の置き換え(現状維持を効率的に)、人の仕事の付加価値強化(今できていないことを実現)が必要だ。
人的資本経営・HR×DXを考えるにあたりROI(Return On Investment、投下資本収益率)を考慮することは必須。しかし投下資本の磨き込みに目が行き、その投下資本で何にリターンを得るのか、が抜けがちだ。従業員への投資の自社における費用対効果が分かり辛い/営業部が担当する現場や店舗には、必要なデータがリアルタイムに使いやすい形で届いていない、という課題がある。また、多拠点ビジネスでは同時多発的にビジネスが進行、および物理的に遠隔のため、状況把握が困難という問題もある。
解決のために必要なのは、課題の公明正大な可視化である。業績数字(結果)とそれを生み出す“過程”の中で、どこに課題があるかを数字ベースで明らかにする。エリアマネージャーはABILIなどを利用して、課題発見ではなく課題解決に力を注ぐべきなのだ。※(1)改善のための“見せる化”(2)拠点の戦力レベル・戦闘力可視化、の事例紹介あり
◎課題は見えても解決方法はどうすればよい?
改善のための実行力・拠点運営力向上のためのデジタル化は、先述のピラミッドと砂時計構造を解消するように活用すべきだ。マネジメントの“ツボ”をつき、現場がスムーズになる方向へ注力する。具体的には、拠点長に武器を持たせ、現場と本部・現場と現場を直接つなぎ他拠点のノウハウを水平展開する(多拠点の強みを生かす)といいだろう。ここでは、ABILIを採用したクリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパンの事例を紹介した。
ABILIが目指すのは、サービス提供の現場である「ラストワンマイル」のできるをふやすことで、店舗と組織の“強み”と課題の見える化~利益創出まで中直的な成長のサイクルを作り、現場と従業員の潜在力を引き出すDXを実現することだ。変革の山登りに必要な“シェルパ”と“コンパス”のような存在でありたい。
■特別講演(2)
共創型組織の作り方
~ 組織風土改革の最新事例から学ぶ ~
株式会社デルタスタジオ
代表取締役社長
(『世界一やさしい問題解決の授業』著者)
渡辺 健介氏
イェール大学(経済専攻)・ハーバード大学院(MBA)卒業。マッキンゼー東京・New Yorkオフィスを経て2007年にデルタスタジオを創業。「世界一やさしい問題解決の授業」「Problem Solving 101」をはじめシリーズ累計68万部発行・25カ国出版の世界的ベストセラーの著者。
VUCA時代には、心理的安全性を高めメンバーの多様な知を生かすことでより良い意思決定、新たな価値創造を行う「共創」が不可欠だ。共創型組織への変革はどのように行えばよいのかを紹介する。
多くの企業が、組織風土改革を最重要課題と位置付けて取り組んでいる。三菱UFJ銀行の亀澤CEOは「企業変革で一番重要だと思っているのはカルチャー改革です」と、パナソニックの樋口CEOは「日本企業が復活するためには風土を改革し、社員の意識、行動を変えないといけない」と述べている。皆さんも「カルチャー改革推進部」など、組織風土改革の専門部署の名前が記載された名刺を受けとる機会が増えたのではないだろうか?
◼️「変わる会議」――会議を起点に組織を変える
ここでは弊社が関わった、ある一部上場企業の組織風土改革事例をご紹介する。
同社は、世界で戦える企業になるべく組織風土改革を行い、「共創」をテーマとしたパーパス・バリューズを新たに策定した。しかし、概念的な思想だけでは組織は変わらない。新しい組織の具体的な働き方“How to Work”を示し、鍛えることが重要だ。そこで、弊社は「共創型の会議」を浸透させることで、会議を起点にドミノを倒すように組織風土を変えるプログラムを提案。CEO・CHRO直轄の全社プロジェクトが始動した。
無意識バイアスを排除し心理的安全性を醸成し、多様な視点・意見を建設的にぶつけ合い共創する力を磨く――。3カ月間の短期集中型の研修を設計し、まずは上層部(CXO)から実施した上で全社3万人に展開。チーム単位で共通言語を醸成し、行動変容を促した。
CEO自ら360度評価の結果を決算説明会で発表することで改革の先陣を切ると、これまで研修を受けた社員も360度評価で76%が、自己評価で99%が「変わった」と回答。同社の取り組みは組織改革の先進的な取り組みとしてメディアにも注目されている。
ここからは実際に行った半日x4回の「変わる会議」プログラムについてご紹介する。
Session1 無意識バイアス・心理的安全性
VUCA&答えが見えない時代、多様性(ダイバーシティ&インクルージョン)の必要性が高まっている。同質性が高すぎる組織では視点が似通い、盲点が生まれやすい。例えば、2001年のアメリカ同時多発テロを防げなかった一因として、CIA職員の同質性が高かったことが挙げられている。2万に1人という厳しい選考を通った極めて優秀な職員でも、同質性が高い集団ではどうしても盲点が生まれてしまう。多様な視点が集まることで、盲点がなくなり意志決定の精度が高まったり、アイデアの質も高まるのだ。
しかし、例え多様な人材がいても無意識バイアスがあると、チーム内で軋轢が発生し、モチベーション・エンゲージメントの低下やコミュニケーション不全が生じる。ステレオタイプ/確証/親和性と様々なタイプの無意識バイアスが存在するが、研修では「知る」「気づく」「行動する」の順に学んでいく。代表的な無意識バイアスを知り、自らの無意識バイアスに気づき、お互いに指摘し合う方法を学ぶ。
また、心理的安全性※がないと結局、多様な視点・考えが生かされない。
※意見、質問、懸念、失敗について率直に話しても罰せられたり恥をかかされたりしないと思えること
例えばリーダーが支配的・高圧的だとフォロワーは同調し、結果として、チームの意見・視点が生かされず、意志決定の質が落ちる。事例を通じて心理的安全性の重要性を理解した上で、チームの心理的安全性を高めるためにはどうすればいいか?具体的な言動・行動を学ぶ。
Session2 発信力・傾聴力
無意識バイアスを排除し心理的安全性を醸成した上で、一人ひとりが質の高い発信力、意見を引き出す傾聴力を磨くことが重要だ。研修では、まず「ピラミッドストラクチャー」を活用した発信力を磨く。マッキンゼーをはじめとする経営コンサルタントがよく活用する、主張と根拠を可視化し、端的に意見を伝えるためのツールだ。残念ながら、多くの企業の会議は緊張感がなく、冗長な発言が許されているが会議の時間は有限だ。端的に意見を発信し、建設的な議論にできるだけ多くの時間を使うことが大切だ。さらに、ピラミッドストラクチャーは傾聴する際にも活かすことができる。自分には盲点があるかもしれないという姿勢を持った上で、ツールを活用しながら相手の主張と根拠の引き出し方を学ぶ。ピラミッドストラクチャーは、この10−20年でだいぶ浸透したと思っていたが、いまだに受講者からは「目から鱗」「これ重要!」といった前向きなコメントが聞かれる。
Session3ファシリテーション力
多様な視点・意見を建設的にぶつけ合わせ化学反応を起こし、よりよい意志決定につなげるファシリテーション力も重要だ。書き出す(発言を白板にしっかりと記録する) 、要約する(参加者全員が理解できるように発言をまとめる) 、介入する(議論の質・生産性を落とす発言には積極的に介入する) など、6つのコツを学び活用することで、効果的な会議ができるようになる。
そして、会議の進め方によっても生産性は大きく変わる。部下がなかなか意見を言わないと嘆く上司は多い。しかし、会議の冒頭にたった5分でも“Thinking Time(各自が黙って考える時間)”を設け、ポストイットやチャットに意見を書かせるだけで、全員の意見を引き出すことができる。また、どの順番で誰から発言するかも重要だ。リーダが先に発言すると、どうしても忖度が働いてしまう。Amazonの創業者兼会長のジェフ・ベゾス氏は、メンバーの率直な意見を引き出すため、会議では絶対に最後に発言するそうだ。このような明日から使えるコツを学んだ上で、受講者がファシリテーター役を交替しながら議論を行い、効果的な会議の進め方を実践型で学ぶ。
Session4 振り返り会
本研修では事前サーベイを行い、受講者個人とチームについて、無意識バイアス、心理的安全性、発信力・傾聴力、ファシリテーション力の各項目について360度評価を取る。受講者は研修で学んだことを現場で実践し、事後サーベイでは3ヶ月間で「変わったか」を測定する。振り返り会では事後サーベイ結果を内省し、今後さらに意識して実践することを発表する。360度評価では、これまで平均76%が「変わった」という評価が出ている。そして、受講者からは「最初は大変だな…と思ったが、チームメンバーとのコミュニケーションを深める良い機会になった」「思ったよりも周りが見てくれていることがわかった」「変化が可視化されることでモチベーションになった」とポジティブな声が多数聞かれた。
◼️本当に「変わる」ために――プロジェクト設計の肝は?
組織風土改革プロジェクトの設計の肝は2つある。
1つ目は「変わる型」での実施だ。ダイエット本を読んだだけで痩せることは難しい。CMで一世を風靡した○IZAPのように短期間で集中的に取り組み、体重を測って追い込むことが必要だ。組織も同様に、Before Afterの変化を測定し、講師・受講者同士・チームで伴走し、互いに刺激し合いながら実践することではじめて「変わる」ことができる。
2つ目は「月ではなく、地球で。個人ではなく、チームで。」の実施だ。多くの研修が「月(=研修所)」で受講して触発されるものの、「地球(=現場)」に戻ったら業務に忙殺されて元通りになってしまっている。さらに、現場から1人だけ研修に派遣しても、現場で知っている人がいないため孤立し、学びを実践できない。これでは成果はでない。「地球(=現場)」で、日々仕事を共にするチームと共に研修を受けることで、共通言語を醸成し、現場での実践につなげることができる。
生産性の向上は多くの企業で喫緊の課題だが、変わる「会議」プログラムはその1つの答えになると確信している。さらに、我々は子供の教育改革にも取り組んでいるが、一人ひとりが多様な視点・意見を発信し、建設的な議論を行う力に共通の課題を感じている。財界から教育界までよい形で広げるべく取り組んでいる。
2024年1月24日(水) 会場対面・オンラインLIVE配信のハイブリッド開催
source : 文藝春秋 メディア事業局