イーストウッドがいる

第145回

中野 京子 作家・ドイツ文学者
エンタメ 映画 アート

一枚の名画をのぞき込んでみると……

 

✓見えてきたのは「化け物?」

これは鬼か邪の仮面だろうか。大きな眼窩に嵌めこまれた眼球。そこには黒目がなく、ただ白いばかりなのが不気味だ。頰まで裂けた口の端にも、何やら白いものをくわえている?……残念でした。目と思ったのは馬の鼻づら。いかに馬の鼻の孔が大きいか、改めて驚く。そして口から出ているのは白い泡だ。たてがみを振り立て、興奮の極みのなか疾駆するこの馬は、いわゆる「口に白泡嚙ませている」状態なのだ。

 


 

イーストウッドがいる 

『森へのダッシュ』

1889年、油彩、122.5×213.5cm、エイモン・カーター美術館 / 写真提供 alamy/amanaimages

 広大な西部の荒野。アパッチ族に追われたカウボーイたちが馬を駆り、銃で応戦しながら懸命に森へ逃げ込もうとしている。そこなら助かる見込みが少しはある。

 ハリウッド製西部劇のごとき緊迫したシーンだが、もちろん映画の方がこの作品(1889年制作)を参考にしたのだ。

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source : 文藝春秋 2024年9月号

genre : エンタメ 映画 アート