黄昏時の妖精

第143回

中野 京子 作家・ドイツ文学者
エンタメ アート 歴史

一枚の名画をのぞき込んでみると……

 

✓見えてきたのは「日本の提灯」

「灯りを提げる」という意味の提灯は、竹ヒゴなどで組まれた丸い枠に和紙や絹などを張り、底にロウソクを立て付けて作る。今で言うところの照明器具であり、懐中電灯だ。中国由来だが、本家との違いは折りたためること。ロウソクのやさしい揺らめきによる幻想性が好まれ、電気時代の現代ですら祭や儀式の場で使われ続けている。燃えやすいという欠点があるが、だからといってロウソクの代わりに電球では風情に欠ける。

 


 

黄昏時の妖精

『カーネーション、リリー、リリー、ローズ』

1885–1886年、油彩、174×153.7cm、テート・ブリテン / 写真提供 alamy/amanaimages

 奇妙なこのタイトル(『カーネーション、リリー、リリー、ローズ』)は、当時のポピュラーソングから取られた。「花の女神フローラの冠は3種の花を編み上げたもの。カーネーション、リリー……」と、何度も繰り返す曲だったという(残念ながら今は聴く術がない)。

 そのフローラの特別な花々が乱れ咲く初夏の宵、幼い少女たちが一心不乱に庭で提灯を吊るしている。

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source : 文藝春秋 2024年7月号

genre : エンタメ アート 歴史