老人虐待か

名画が語る西洋史 第141回

中野 京子 作家・ドイツ文学者
エンタメ アート 歴史

一枚の名画をのぞき込んでみると……

 

✓見えてきたのは「髪の毛をつかむ」

今は知らず、かつて「髪は女の命」と言われていた。アメリカのミステリには、薄毛に悩む青年のこんな弱気な台詞があった、「禿げていてももてるのはショーン・コネリーだけ」。また目隠しのまま球体に乗り、ふらふら走って来る「幸運の女神」を見たら、即座にその前髪をつかめるようでないと運気を上げることはできない――かように髪が重視されるのは、髪に生命力が宿っていると信じられてきたからだ。さて、これは誰の髪?

 


 

老人虐待か

『希望と愛と美に打ち負かされる時』

1645-1646年、油彩、187×142cm、ベリー美術館/ 写真提供 Bridgeman Images/amanaimages

 若い女性たちと小さな男の子が、半裸の老人に暴力をふるっている。老人は情けない表情で赦しを乞うているようだが、誰ひとり手を緩める気配はない。

 何があったか知らないが、ご老人を虐めてはいけないよ、と仲裁に入りたくなるかもしれないが、彼の正体を知ったとたん、思わず女性たちに加勢してしまうのではなかろうか。

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source : 文藝春秋 2024年5月号

genre : エンタメ アート 歴史