牡蠣大好きフランス人

名画が語る西洋史 第140回

中野 京子 作家・ドイツ文学者
エンタメ アート 歴史

一枚の名画をのぞき込んでみると……

 

✓見えてきたのは「空飛ぶコルク栓」

ちょっと特殊なこのコルク栓は、開けた瞬間、炭酸ガスの圧力でポンという音とともに宙を飛んだ。このようにシャンパンやスパークリングワインのような炭酸ガスを多く含むワインは、開け方によって勢いよく栓が飛び、瓶から泡が噴きこぼれたりするのは誰もが知るとおり。それを防ぐにはコルクを手で押さえながら瓶を回し、少しずつガスを逃がして開けるのがよいのだとか。でも派手な音がする方が景気がいいですよね!

 


 

牡蠣大好きフランス人

『牡蠣の宴会』

1735年、油彩、180×126cm、コンデ美術館 / 写真提供 Alamy Stock Photo/amanaimages

 ルイ15世直々の発注による本作は、スパークリングワインが描かれた最初の絵画と言われている。17世紀後半に生まれたばかりの新種のワインなので、黒いずんぐりしたボトルが使われている。中央やや左寄りで、数人が宙を飛ぶコルク栓を見上げて笑みを浮かべている。ポンという大きな音も珍しかっただろう。

 ここはヴェルサイユ宮殿の小さなダイニングルーム。男たちだけの特殊な昼食会で、供されるのも生牡蠣とパンとワインのみ。テーブルには他に塩、バター、ニンニクが並び、それぞれの好みで使われた。

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source : 文藝春秋 2024年4月号

genre : エンタメ アート 歴史