恋人がマドンナ

第144回

中野 京子 作家・ドイツ文学者
エンタメ アート

一枚の名画をのぞき込んでみると……

 

✓見えてきたのは「おでこ」

ルネサンス時代のイタリア上流婦人たちは、このように生え際からさらに上まで前髪を剃り上げていた。なぜそんなめんどうなことをしたかといえば、人相占いで額の広い人は賢明だと太鼓判を押されていたから――というわけではない。額が広くなれば相対的に顔の下半分が小さく見え、幼女のような愛らしさを醸し出すことができるからだ。ついでにその広いおでこを宝石で飾れば、なにやら神々しくも感じられるだろう、との深謀遠慮。

 


 

恋人がマドンナ 

『聖母子と二天使』

1460-1465年頃、テンペラ、95×62cm、ウフィツィ美術館 / 写真提供 Alamy Stock Photo/amanaimages

 窓なのか額縁なのか、にわかには判定しがたい縦長の枠に雄大な風景がおさまり、その前で愛らしい聖母が両手を合わせて祈っている。伏し目がちなその瞳がこちらへ向けて見開かれれば、どんな男性でも平静ではいられないだろう。なんと魅力的なマリア!

 彼女には幼子イエスが見えていないようだ。これから生まれてくるイエスを2人の天使が支え上げて聖母に、というよりこの絵を見ている我々に、披露しているのかもしれない。手前の天使が、いたずらっ子めいた笑顔をこちらへ向ける。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!

初回登録は初月300円

月額プラン

1ヶ月更新

1,200円/月

初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。

年額プラン

10,800円一括払い・1年更新

900円/月

1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き

電子版+雑誌プラン

12,000円一括払い・1年更新

1,000円/月

※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き
雑誌プランについて詳しく見る

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2024年8月号

genre : エンタメ アート