何気なしに飲んだ一杯の美味しさと奥深い味わいに導かれてコーヒーの世界に飛び込んで10年。最初は焙煎を極めようと思っていたのですが、気づけば焙煎もできるバリスタになっていました。2024年はジャパン・ブリュワーズ・カップ(JBrC)で2度目の優勝を果たしました。この大会で私が武器にしたのは「ブレンドコーヒー」。その魅力に気がついたのは、ある一杯がきっかけでした。
JBrCは競技者が持参したコーヒーを抽出する「オープンサービス」部門と、大会側で準備されたコーヒーを淹れる「必修サービス」部門の成績の合計で順位が決まります。私が最初に優勝した2019年までの数年間、決勝に残ったのは、資金力のある大手チェーン所属のバリスタがほとんどでした。彼らは、大会に勝つための知見を社内に蓄積していましたし、企業の力で、大会で評価される複雑な味を持つ希少なコーヒー豆を入手することもできるので、それらを武器に勝っていました。対して、コネも資金もない私が手に入れられるのはウォッシュドと呼ばれる落ち着いた味のコーヒー豆。ウォッシュドだけで、どうすれば彼らに勝つことができるか? 弱者の戦略を考えた末に「いろんな豆を混ぜれば複雑な味が作れるはず」とひらめきました。研究と試行錯誤を重ね、とても美味しい、複雑で透明感のある一杯にたどり着きました。その一杯の「ブレンドコーヒー」は2021年の「ワールド・ブリュワーズ・カップ」(WBrC)のオープンサービス部門で最高得点を得て、準優勝を果たしました。それ以来、私は「ブレンド」を極めようと日夜研鑽を積んでいます。
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source : 文藝春秋 2025年1月号