振りむけば50年

西村 建治 西村画廊代表
エンタメ アート

 銀座2丁目に小さな画廊を開いたのは1974年で、その頃殆ど日本に紹介されていなかったイギリスの現代美術を手掛けてみたいと思った。20年ぐらい続けたら何とかなるのではないかと漠然と思っていたが、気がつけば既に50年の歳月が過ぎ去り、画廊は依然として小さいがなんとか存在し続けている。

西村建治氏と舟越桂(画廊提供)

 この間に画廊で310回の展覧会と、画廊外の美術館などで催した10を上回るプログラムを実現させる事ができた。後者では近年イギリスの巨匠フランシス・ベーコンが1992年の死の1週間前に知人に贈ったドローイングの展覧会「フランシス・ベーコン アトリエからのドローイング、ドキュメント」を2021年に計画したが、折しも新型コロナウィルスの蔓延で、開催美術館が一部の日を除き閉館される事態が発生した。

 それでも、その一部の期間限定で開催した神奈川県立近代美術館葉山での24日間、渋谷区立松濤美術館での6日間で作品を公開する事が出来たのは、不幸中の幸いであった。これらのドローイングは、リチャード・アヴェドンやエドワード・マイブリッジの写真、あるいはTIMEなどの印刷物の表紙の上に荒々しい筆致でドローイングしたもので、生前公開されたことがない約2000枚から成り立っていた。

 日本初公開のために、私はノルマンディの所有者を訪ね出品作約100点と資料を選んだのだった。

 それ以前にロンドンのテイトギャラリーは約1000枚のドローイングを所有者から寄贈されていたが、ベーコンの作品管理を行うベーコン・ファウンデーションはこれらの作品群を見たことがなかったため、ベーコンの制作と認めなかった。

 これを受け、テイトギャラリーは研究鑑定員を投入し、8年かけてベーコンが制作した作品だと宣言した。私はテイトのアーキヴィストから作品を見せてもらい、数奇な運命を辿ったこれらのドローイングに感動した。

 ルシアン・フロイドは1933年ベルリンからロンドンへ移住した。祖父は心理学者で精神分析の祖ジークムント・フロイトである。ベーコンを描いた肖像画は0号大であるが恐らく20世紀最高の肖像画の一つと言えるだろう。この作品は1988年ベルリン新国立美術館のフロイド回顧展開催中に盗難に遭い、現在に至るまで発見されていない。

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source : 文藝春秋 2025年1月号

genre : エンタメ アート