MORIOKA第一画廊と弟たち

巻頭随筆

末盛 千枝子 編集者
エンタメ アート

 MORIOKA第一画廊と喫茶舷(げん)が昨年秋についに閉じられてしまった。盛岡市の中心、中ノ橋の袂、テレビ岩手の一階にあって、ここに移ってからでも30年は経っていた。街の中心なのに、中津川という美しい川に面していて、春には河原に勿忘草が咲き乱れ、秋には信じられないようなことだけれど鮭の遡上が見られるのだ。

 MORIOKA第一画廊と舷は、まるで盛岡の美術の発信地のようなところで、彫刻家の父舟越保武はもちろん、両親の苦労を見て育ったはずなのに、なぜかそれぞれ美術の道を歩み始めた2人の弟たちも、若い時から第一画廊の上田浩司さんや、舷を経営しておられた直利庵という老舗蕎麦やさんの名物女将で、しかも大変な目利きで美術コレクターの松井裕子さんのお世話になってきた。第一、松井さん自身が、上田さんの影響で美術に関わり、女将でありながら東京の大学の通信教育をうけ、ついに学芸員の資格をお取りになったのだった。

 私自身盛岡に出て時間があると舷に寄ってコーヒーを飲み、川に面した隅の気持ちのいい席で東京からのお客さんと話し込んだり、上田さんがお元気な時には、そのとき飾ってある作品のことをいろいろと教えていただいた。その時その時、展示されているいろんな作品を見るのは実に楽しく、上田さんによって知った作品も多い。そういう上田さんが弟たちの作品を早くから評価して下さったことは驚きでさえあった。喫茶コーナー舷にはまるで何気なく、草間彌生の小さな作品が置かれていた。

 父の代表作の一つと言われる「ローラ」という大理石の女性像のモデルのローラは息子さんが、かの有名なシルク・ドゥ・ソレイユのメンバーで、日本で公演していた時期があり、ローラはその息子さんに招かれて、自分がモデルになった父の作品を見るためにスペインのセビリアから岩手県立美術館にやってきた。まるで夢のようで、新聞の取材まで入り、もちろん舷で楽しくお茶を飲んだ。

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source : 文藝春秋 2021年6月号

genre : エンタメ アート