日本のチョコレートメーカーにとって、ガーナ共和国(以下、ガーナ)産カカオ豆は、寿司屋にとってのマグロだ。これさえあれば何とか商売になるのである。わが国が輸入するカカオ豆の7割以上がガーナ産なのだから。
そのガーナの西部にある、人口1000人ほどのアセラワディという村の名誉酋長に、私は任命された。今から12年前のことである。現地語ではンコスオヘネ、英語ではデベロップメント・チーフ(直訳すると開発チーフ)と呼ばれている。有名人ではあのミュージシャン、ボブ・ゲルドフも、ある町で2004年に開発チーフに任命されている。名誉酋長という意訳は、中(あた)らずと雖(いえど)も遠からずではあるが、少し説明を加えておきたい。
アフリカ諸国では、伝統的首長制度が古くから受け継がれ、独自の支配層を形成している。伝統的首長はナナと呼ばれるが、植民地時代にヨーロッパ人がチーフという語をあてた。ガーナでも、どの村や町にもチーフがいて土地と人民を統治している。さらに、各地方のチーフを束ねているのがパラマウント・チーフである。そして、パラマウント・チーフの頂点に立つのが、アシャンテヘネと呼ばれるアシャンテ王国のキングだ。そう、ガーナには、現在も王国が存在している。王は、人々の絶大なる尊敬を集める存在で、誤解を恐れずに言えば、国民からすると王はガーナ大統領よりも偉いのである。
私は会社の業務として、カカオ農家を支援する活動を担当している。はやりの言い方をすると、カカオ事業におけるサステナビリティの推進と、SDGs達成のための支援活動ということになる。活動の詳細は当社のホームページを見てもらうしかないのだが、村への支援が認められて私は開発チーフに任命された。これは外国人がなれる唯一のチーフである。
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source : 文藝春秋 2021年6月号