九州で生まれた 珈琲職人

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九州が新たな聖地なんですよ――。珈琲通で小誌でも活躍のカメラマン・赤尾昌則さんが語った。京都や神戸ではなく、なぜ九州に美味しい珈琲が? 早速、現地へ赴いた。

熊本「珈琲アロー」にて。87歳の店主・八井巌さん

 佐賀の嬉野や鹿児島の知覧など、九州は日本茶の名産地が点在する。

 当地でなぜ舶来の珈琲が支持されてきたのか、取材中に尋ねると「やはり、もともとお茶の文化があったからでしょう」という返事が多かった。ただ、芸事として茶道の作法を重視するのではなく、お茶をシンプルに楽しむ。その自由なスタイルが九州の珈琲文化に繋がったのでは、と聞いた。ノー・ルールが生んだ珈琲とその作り手は、あまりに多彩だ。赤尾さんは語る。

「珈琲アローは八井さんの強いこだわりのもと、珈琲の範疇では語れない珈琲を誕生させました。珈琲美美は柔和な中にも芯のある味が素晴らしい。豆香洞は、個性を追求しがちな珈琲において“俺”より“全体”を考えて作られる繊細さがいい。珈琲 冨士男は先代のいる難しさを乗り越え、必ず誰かにハマる味。まさに喫茶店のあるべき姿です」

 
 
 

珈琲アロー|熊本
1964年の創業以来、全国の珈琲好きに知られ、海外からの客も多い。取材時はマレーシアからの男性がいた。メニューは珈琲のみ。10席あるカウンターに座ると、1杯差し出される。香りはふくよかな珈琲だが、驚くのはその色。ほうじ茶のような淡く輝く色で、すっきりした味わいだ。ごく浅煎りの豆を使った「琥珀色の珈琲」は三島由紀夫も愛したという。
(住)熊本市中央区花畑町10-10 ☎096-352-8945

信念を貫いた一杯には珈琲の神が宿る

「珈琲美美」では、ネル・ドリップの伝道師といわれた故・森光宗男さんと、妻の充子さんが半世紀近く、深煎りのモカを極めてきた。アメリカンが全盛の70年代に、エチオピアの農家で煮出したとろっとした濃厚な味に感動したのがきっかけだ。「薄めてくれと言われたこともありますが(笑)。豆の油脂はコクになります。だからフィルターは油脂を吸う紙でなく、布のネルを使います」と充子さん。焙煎する前の晩は、お湯で豆を洗い、ふっくらと活性化させるのも特徴。アンティークな設えの店内にその香りと味が広がる。

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source : 文藝春秋 2024年3月号

genre : ライフ ライフスタイル グルメ