1ページ目から読む
2/3ページ目

公判が始まるや、田辺受刑者は犯行を全面否認

「当日の行動について説明を求めると、『友人と待ち合わせしたが、相手が来なかった』、『コンサートへ行かず、ドライブに出かけた』などと供述が二転三転し、結局は午後9時頃から問題のゲームセンターの駐車場で寝ていたことを認めた。さらに赤ん坊の泣き声で目が覚めた後、連れ去って海に突き落としたことを認める供述も始めた。だが、詳しい状況を尋ねると、『私、死刑ですか?』などと尋ねてくるようになり、男児は連れ出したが、海には捨てていないと供述を変遷させた」(捜査関係者)

 田辺受刑者は一転、「男児を公園に置き去りにした」と供述を翻したが、その公園の引き当たり捜査に出かける途中、「このまま赤ちゃんを連れ去った罪だけで償っても一生後悔するぞ」と諭されると、泣きながら「海に捨てた」ことを認め、その場所を案内したという。

 ところが、公判が始まるや、田辺受刑者は犯行を全面否認。一審判決では「被告が犯人である可能性はぬぐいきれないが、供述内容を裏付ける客観的な事実がなく、被告が犯行を犯したことの証明がなされていない」として、無罪を言い渡した。その際、裁判長は自信のなさの表れだったのか、「この事件は控訴審で判断を仰いでください」と異例の説諭をする一幕もあった。

ADVERTISEMENT

 その後、二審判決では「自白は自発的になされ、中核部分は客観的事実と齟齬がなく、根幹部分において十分な信用性が認められる」として、懲役17年の有罪判決を言い渡した。結局、最高裁も二審の結論を支持し、2008年9月に判決が確定した。

©文藝春秋

なぜ「やってない」と言わなかったの?

 当時、捜査に携わった元愛知県警幹部が語る。

「この事件については、田辺が冤罪ということはあり得ない。コツコツと積み上げた状況証拠はこれだけではなく、我々は田辺が犯人だと確信している」

 その手の内を次々と明かしたのが、2007年2月27日に開かれた名古屋高裁での被告人質問だ。弁護側は「被告人は強く誘導されると、それに迎合してしまう性格」と説明したが、検察側は容赦なかった。

名古屋地裁・高裁 ©諸岡宏樹

検察官 愛知県警豊川署に逮捕された後、奥さんが面会に来てるよね。そのときになんて話したの?

被告人 妻には自分が犯人だと疑われていた。

検察官 「ごめん、自分がやっちゃったんだよ」と話したんだろ。やってないならやってないとなぜ言わなかったの?

被告人 怖くなって……。

検察官 警察の初めての事情聴取で、「ゲームセンターの駐車場に午前3時に友人と待ち合わせをしていた」と言ったよね?

被告人 はい。

検察官 これもウソだったよね。なぜ「3時」と言ったんだ。男児が連れ去られた後だよね。

被告人 そうです。