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真実を語るような人がこれだけのウソをつくんだ

検察官 あなたは事件の3年前から奥さんに飯も作ってもらえず、子供を風呂に入れたら車で外出し、ゲームセンターの駐車場で寝るという生活を続けていたよね。それが事件が起きた途端、寝る場所を変えたのはなぜなんだ。

被告人 これといった理由はありません。

検察官 では、事件後に会社を辞めたのはなぜだったの?

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被告人 特に理由はありません。

検察官 奥さん側の親の看病で仕事ができなくなったと説明してるでしょ。これもウソだよね。自分が男児を殺した犯人ということになれば、勤務先に迷惑を掛けると思ったからじゃないの?

被告人 それは違います。

検察官 弁護人はあなたのことを「気が弱くておとなしい人」と言うけれど、真実を語るような人がこれだけのウソをつくんだ。

事件を捜査した豊川警察署 ©諸岡宏樹

 さらに検察官は、田辺受刑者が「捜査員から威圧的な取り調べを受け、自白させられた」と説明していることについて、こんな矛盾点をただした。

検察官 あなたは初めて取った調書の中で、「自分は中学時代は野球部で、ショートを守る一番バッターだった」という話をしてるよね。

被告人 それはカッコつけです。

検察官 ある高校を受験したけど、不合格だった。これもウソだよね。受けてもいない。何でこんなこと言ったの?

被告人 ただの見栄です。

検察官 専門学校卒業後、大手家電メーカーの下請けをやってたって……、これもウソだよね。どういう意味で言ったの?

被告人 自分をカッコよく見せようと思ったんです。

検察官 濡れ衣を着せられ、怖くて認めてしまったという精神状態の人が、そんなウソやカッコつけが言えるんですか?

被告人 ……。

検察官 あなたは弁護士にもウソを言ってるよね。当日の行動について「ゲームセンターに着いたのは午前2時30分頃。犯行時間帯にはいませんでした」って、手紙に書いてるでしょ。

被告人 覚えてません。

男児の父親は「自らの犯した罪を認め、刑を全うしてほしい」

 被告人質問は同年3月22日の公判でも続けられたが、「あなたは警察にひどい取り調べを受けたって言ってる割には、釈放後、『奥さんもいない。金もない。世話をしてくれないか?』って、警察署に電話をかけてきてるでしょ。なぜですか?」などと質問し、裁判長から「もう、電話の件は結構です」と制止される場面もあった。

 一審から最前列で公判を傍聴し続けてきた男児の父親は田辺受刑者の犯行を確信しており、再審請求についても「棄却は当然と思っている。田辺受刑者には、いつまでも無罪を主張するのではなく、自らの犯した罪を認め、刑を全うしてほしい」とのコメントを出した。

 ちなみに逆転有罪判決を言い渡した名古屋高裁の前原捷一郎裁判長は、判決言い渡しから4日後の2007年7月11日に依願退官している。