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「王様と奴隷でした」……北九州監禁連続殺人事件で7人が殺害されるまでのおぞましい手口

ケース2・松永太 北九州監禁連続殺人事件#1

2019/06/01
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あらゆるドアに7、8個の南京錠をかけてある異様な光景

「2DKの部屋に入った捜査員全員が愕然とした。生まれて初めて霊感のようなものを実感したよ。本当に恐ろしかったんだ。部屋に入ってまず感じたのは、明らかに人間の血の臭いだった。部屋の片隅には消臭剤が大量に積まれていて、血の臭いを消すためだとすぐに想像がついた。風呂場やトイレ、部屋など、あらゆるドアに7、8個の南京錠がかけてあって、窓には全部つっかえ棒が釘打ちされていた。それはもう、なにもかも異様な光景だった」

 これは、7人が殺害された三萩野マンション(仮名・北九州市小倉北区)に、家宅捜索で初めて足を踏み入れた状況について回想する捜査員の言葉だ。

 2002年3月、監禁から逃走した少女・広田清美さん(仮名)は、捜査員に対して父親が殺されたことを訴えた。さらに「とにかく部屋を見てほしい」と繰り返した。そこで半信半疑の思いで家宅捜索をした捜査員の目に飛び込んできたのが、先の証言にある、手練れの刑事をも戦慄させた“殺人部屋”の痕跡だった。

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 1996年から1998年にかけ7人が殺されたこの部屋で、最初の犠牲者となったのは、清美さんの父親・広田由紀夫さん(仮名・当時34)である。

 北九州市で不動産会社に勤めていた由紀夫さんは、客の知人として知り合った松永に社内での不正行為などの弱みを握られて勤務先を退職。娘の清美さんとともに、三萩野マンションでの同居を強要された。

 そこで松永による、殴る蹴るの暴力や通電が繰り返されることになる。さらに由紀夫さんには1日1食の食事制限も加えられ、徐々に衰弱していった。1996年2月、彼は閉じ込められた浴室内であぐらをかいたまま上半身を倒し、脱糞している状態で見つかった。当時11歳の清美さんが掃除をしている目の前で、由紀夫さんは息絶えたのだった。

 純子から報告を受けた松永は、『ザ・殺人術』という本を参考に、遺体をバラバラにすることを決め、純子と清美さんの2人に命じて、遺体を浴室で解体・処分させた。

 その次に、この部屋で松永が暴虐の限りを尽くしたのが、純子の親族・緒方家の人々である。それまでは福岡県久留米市にある純子の実家で、実直に暮らしていた3世代家族の6人は、松永の謀略にかかり、1997年4月頃からこの部屋で軟禁状態にされた。

 殺害されたのは純子の両親である誉(たかしげ)さん(当時61)と静美さん(当時58)、妹の理恵子さん(当時33)とその夫の主也(かずや)さん(当時38)、さらに2人の子供である彩ちゃん(当時10)と優貴くん(当時5)である。

 その悪辣な手口をすべて紹介するには紙幅が足りない。時期とおおよその殺害状況のみを記しておく。

●1997年12月 誉さん殺害

 心臓部への通電によるショック死。誉さんの反抗的な発言に怒った松永の指示により、家族の前で純子が通電したところ、座ったまま前のめりに倒れた。死亡したことが確認されると、松永の誘導で遺体は純子と静美さん、理恵子さん夫婦と彩ちゃんの5人で解体することになった。

●1998年1月 静美さん殺害

 誉さんの死後、松永は静美さんへの通電を集中。精神に異常をきたした彼女は奇声を上げ、食事を拒絶するようになったため、浴室に閉じ込められた。松永の指示で主也さんが電気コードで首を絞め、理恵子さんが足を押さえて殺害。遺体は純子と理恵子さん夫婦、彩ちゃんの4人で解体した。

●1998年2月 理恵子さん殺害

 静美さんの死後、松永による顔面への通電など、衝撃の強い虐待が集中する。彼女もまた奇声を上げるようになり、松永から殺害を示唆された純子と主也さんが話し合い、主也さんが電気コードで首を絞め、彩ちゃんが足を押さえて殺害。遺体は純子と主也さん、彩ちゃんの3人で解体した。主也さんは「とうとう自分の嫁さんまで殺してしまった」とすすり泣いた。

●1998年4月 主也さん殺害

 元警察官の主也さんの体力を奪うために、松永が食事を制限し、通電を繰り返したところ、やがて衰弱して水も受け付けなくなった。浴室に閉じ込められ、痩せ細った主也さんに、松永が眠気覚まし剤と500ミリリットルのビールを飲ませたところ、1時間後に死亡。遺体は純子と彩ちゃんの2人で解体した。

●1998年5月 優貴くん殺害

 主也さんの死後、松永が「大人になったら復讐するかもしれない」と純子に殺害を指示。その上で松永は「優貴はお母さんに懐いていたから、お母さんのところに返してやったら」と遠回しに彩ちゃんに殺害を了承させる。そして純子と彩ちゃんが電気コードで首を絞め、清美さんが足を押さえて殺害した。遺体は純子と彩ちゃんの2人で解体した。

●1998年6月 彩ちゃん殺害

 優貴くんの死後、松永は彩ちゃんへの通電を集中させた。これまでの食事制限もあり、2歳児のおむつが穿けるほどに痩せ、衰弱した彩ちゃんを松永が説得。逆らうことのできない彩ちゃんは、優貴くんが殺害された場所に自ら横たわり目を瞑った。純子と清美さんが首に巻き付けた電気コードで絞殺。遺体は純子と清美さんの2人で解体した。

 このように緒方家については、およそ月に1人のペースで殺人が繰り返された。松永は主犯であるにもかかわらず、自分の手は一切汚さずに、7人もの命を奪ったのである。