6月30日、台湾・台北市の国立台湾大学で、今年101歳になる現役の台湾人革命家・史明(しめい)が人生最後の講演を行った。中国という脅威が虎視眈々と中台統一のチャンスをうかがう中、香港では自治権を脅かす中国の政策に市民が猛反発し、大規模なデモが続発している。総統選を来年1月に控える今、台湾の若者たちは香港の動乱や史明のメッセージから何を読み取り、どう中国に立ち向かおうとしているのか。
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香港では6月から、犯罪容疑者の中国本土への引き渡しが可能となる「逃亡犯条例」改正案の撤廃を市民が要求し、数十万~数百万人規模の大規模なデモが繰り返されている。
中国政府が「容疑者」とみなせば、本人の同意なしで香港在住者の本土送還が可能となる改正案に市民は猛反発し、デモは7月以降、急進派の若者らが先導して先鋭化。公然と中国を批判しながら警官隊と衝突し、流血沙汰となるケースが増えており、収束に向かう気配はない。
「今日香港、明日台湾」という危機感
そして、混沌とする香港情勢に焦燥感を深めているのが台湾の若者たちだ。中国の覇権主義に呑み込まれ、香港市民が守ってきた民主、自由、自治などが侵されていく様子は、台湾人にとって他人事ではない。
習近平国家主席が中台統一を在任中の最重要課題に掲げていることは台湾人も認識しており、史明の講演に駆け付けた若者たちは誰もが「今日香港、明日台湾(きょうの香港はあすの台湾)」という危機感を共有する。
台湾だけを見て台湾を語るな
「史明さんは、『台湾だけを見て台湾を語るな。台湾は世界の中の台湾。台湾が失われれば世界にとっても取り返しのつかない損失だ』と繰り返し訴えていたことが印象的だった」と語るのは、国立台湾大学の洪敦昱(24)だ。政治談義好きな父母の影響で、大学入学直後に史明の存在を知り、著作などを読み漁ったという。
台湾独立問題はとかく台湾vs.中国の視点で語られがちだが、彼は史明の話から、アジアの中の台湾、世界の中の台湾という角度で考えていくべきだと再認識した。「誰もが当たり前のようにグローバルを口にする時代だが、100歳の高齢でごく自然にグローバルな視点から台湾を俯瞰できるのが格好よすぎる」(洪敦昱)。