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プロパガンダも使い方次第で中和可能

 あいトリは、「不自由展」だけではない。その思いは、名古屋会場(愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、四間道・円頓寺)をめぐって一層強くなった。とにかく作品が豊富であるし、印象的なものも少なくない。

 個人的には、あちこちで軍歌が使われていて驚いた。こういうコンテンツが参照されざるをえない時代なのだろうか。たとえば、藤井光の「無情」(名古屋市美術館)。これは、台湾人を「皇民化」する戦時下のプロパガンダ映画を用いた映像作品である。

「天照大神、天照大神……」と唱えながら禊をする、「大君の辺にこそ死なめ」と「海ゆかば」を歌う――。これを、現在、愛知県内で学び働く若いひとびとが再演している。ただ古い映像を見る以上に、苦い印象を与えてくれる。

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円頓寺商店街。展示会場が点在する。

 あるいは、毒山凡太朗の「君之代」(円頓寺本町商店街)。これも映像作品で、日本統治時代に教育を受けた台湾人へのインタビューである。そこでは、台湾の高齢者がじつに流暢な日本語で、君が代、軍歌、唱歌、教育勅語などを口にする。なかには、日本の教育はよかったという声まであったりする。

 そしてやはりここでも「海ゆかば」が出てくる。おまけに「同期の桜」や「月月火水木金金」、「台湾軍の歌」までも。こんな軍歌ばかり流れていいのかしらんと思ってしまった。

 いやいや、プロパガンダといっても、使いかた次第なのだ。配置や解釈などによって、その内容を中和できることもある。それこそアートの力なのだろう。もちろんそれは、未来や他国のプロパガンダから距離を取ることにも応用できる。あいトリはある意味、しっかりプロパガンダとも向き合っていた。

「プロパガンダだから駄目!」という批判は短絡的すぎるにしても、たんに「表現の自由だ!」「検閲だ!」と叫ぶのもあまりに単純すぎるし、政治運動になりかねないとも思われた。

あいトリの公式アプリはおすすめ

 それはともかく、今回足を運んでわかったのは、ネット上にみられるようなギスギスした感じがまったくなかったことだ。タクシーやバーなどで地元のひとにも訊ねてみたものの、「なんかニュースでやっていた」程度で、炎上騒ぎ自体ほとんど知らないようだった。

 数日滞在しただけなので、これですべて説明できるわけではない。ただ、「こんなものか」といささか拍子抜けした。街宣車からも同じ軍歌が流れていたら観客はどのように感じただろうとも、いささか無責任に思ったのだが――。少なくとも一観客として、とくにストレスは感じなかった。

 最後に、きわめて現実的なアドバイス。あいトリの公式アプリは便利なので、ぜひインストールをおすすめする。展示場所が散らばっている四間道・円頓寺や豊田市で、とくに威力を発揮する。また四間道・円頓寺の周辺は飲み屋がたくさんあるが、日曜日は休みが多いので、事前に開いているか確認しておいたほうがよい。私はいい店をいくつか見つけたので、秋にも再訪したいと思っている。

写真=辻田真佐憲