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3歳男児が窒息死 “足立区ウサギ用ケージ監禁虐待死事件”の両親は次々と子供をつくっていった

凶悪事件から読み解く貧困問題 石井光太インタビュー #2

2019/09/28

虐待している意識のない親たち

 一方の忍はホステスの母とトラック運転手の間にできた子で、奔放な母に育児放棄され乳児院と児童養護施設で育てられています。小学校のころから(目につくものはなんでも口に入れてしまう)異食症を発症し、さまざまな問題行動を重ねていた忍は、中卒後、当時ソープランドで働いていた母と暮らしますが、食事もろくに作られず水道やガスが止められることも日常茶飯事な劣悪な環境で、高校を中退して職を転々とした勤め先のひとつが朋美と出会ったホストクラブだったわけです。

©杉山秀樹/文藝春秋

 彼らの住んでいたアパートではゴミ屋敷のような部屋で犬猫を15~16匹飼っていたんですが、走り回る犬を犬小屋に閉じ込める感覚で「うるさいから」と玲空斗くんをウサギ用のケージに監禁し虐待を繰り返していた。次女の玲花ちゃんには犬用の首輪をつけて動きを制限していた。ある日、ケージのなかで玲空斗くんがギャンギャン泣き始めて、やかましいと忍がタオルで口を縛ったら、翌日死んでいた。僕は取材前、どれだけ極悪人の夫婦かと思っていたら、本人たちは虐待している意識がなく、彼らは彼らなりの仕方で子供を愛していたことに強い衝撃を受けました。二人とも親の貧困という闇があって、すべての感覚や優先順位が狂ってしまっているまま、生活保護で「非社会の親」になり、子育てでまわりとつながることもないまま、結果として子供を虐待死させてしまっている。

©iStock.com

――福祉政策、支援のあり方を深く考えさせられる事件ですね。

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石井 冒頭でも言ったように、自己否定感というその子が抱えている精神的な問題をなくさない限り貧困問題は解決できません。お金だけ、箱だけ用意しても絶対に駄目なんです。もちろんそういう物理的な支援も必要ですが、社会のなかで多様な価値観を認めて、さまざまな境遇にある人たちの特性を認め、尊重する――そうやってその子のなかで自己肯定感を育んでいくことこそ大切です。