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3歳男児が窒息死 “足立区ウサギ用ケージ監禁虐待死事件”の両親は次々と子供をつくっていった

凶悪事件から読み解く貧困問題 石井光太インタビュー #2

2019/09/28
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2000年以降の「虐待の時代」

――こうした現象の背景に何があったのでしょうか。

石井 問題を抱えた子供たちを調査すると、背景に家庭での虐待経験があることが分かってきたんですね。もちろん、以前から今で言うネグレクトや家庭内暴力はありましたが、メディアで盛んに取り上げられたことで顕在化しやすくなり、統計的にも虐待の相談件数が急増しました。これが2000年以降の「虐待の時代」です。リストカットや引きこもりといった社会的不適合の子供たちが内面に問題を抱えていること、虐待やネグレクトなどによって、脳の発達が遅れてしまうことや精神疾患を抱えやすくなるといったことが広く知られるようになり、いままで教育の領域だったものが医学の領域にシフトしました。

 また、家庭の問題は「親を支援しないと解決につながらない」という視点がこの時代になってようやく出てきました。実際に虐待家庭を取材すると、貧困家庭が多く、親がアルコール依存症などの問題を抱えているケースが多く見受けられます。無論、貧困だから虐待をするという意味では決してありませんが、比較すれば貧困などが要因としてあるというのは統計に表れています。どの家庭にだって似たようなトラブルが起きるものですが、貧困家庭では親自身の問題が経済的問題によってねじれにねじれてしまっているのです。

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©杉山秀樹/文藝春秋

 一例を挙げると、僕が『「鬼畜」の家』で書いた「足立区ウサギ用ケージ監禁虐待死事件」は、2013年当時3歳の皆川玲空斗くんが両親にウサギ用のかごに監禁され、口にタオルをまかれて窒息死させられた凄惨な事件ですが、父親の皆川忍、母親の皆川朋美のふたりとも、貧困の連鎖のなかで形成された、いわば世間から孤立した「非社会の親」でした。朋美はホステスをやっていた母が客との間につくった子で、母の再婚相手の家で腹違いの兄弟たちとともに育ちますが、中学のときに学校で深刻ないじめを受けて不登校になり、中卒で自らもホステスになった。10代で店で知り合った客との間に子供をつくっていた朋美は、母に連れられて初めて行ったホストクラブで、同じく中卒でホストをしていた忍と出会い、ひと月後には同棲をはじめ、毎年のように子供を生み続けるんです。朋美は専業主婦になり、忍はホストをやめて派遣会社に登録して運送の仕事をしていたんですが、当然大家族で暮らせるわけがない。彼らの財源は生活保護。生活保護を支給されるようになってから再就職しようとせず、第5子、第6子と出産していき、最終的には月40万を超える支給額を受けていました。生活保護をもらって密室で暮らせるから、誰もストップをかける人がいないまま、次々と子供をつくっていった。