母親からの影響で3歳から聖書を読んでいた。父親からは『ブレードランナー』を観させられた(笑)。
――その感性は家庭環境の影響もあったのでしょうか。川村さんのお父さんは、川村さんが生まれる前に映画関係の仕事をしていたんでしたよね。原体験ってどうですか。
川村 日活で映画の助監督をやっていました。それで、小さい頃からいろんな映画を観させられたんです。それと、母親はクリスチャンで。聖書を暗記できるくらい読まされました。一時は本当に、そらで言えるくらいでした。
――旧約聖書ですか、新約聖書ですか? 聖書はあらゆる物語に影響を与えているから、ものすごくいい素地ができましたよね。
川村 両方読みました。そう、聖書にはものすごいストーリーが詰まっているから、物語のベースとしてはもうあれで充分なくらいですよね。でも大変でしたよ、父親は『ブレードランナー』とか『風の谷のナウシカ』をばんばん観させるし、母親は聖書を読めという人なんですから、矛盾がすごくて(笑)。
3歳から聖書を読んでいたら、もうその文章しか受け付けなくなるんです。聖書ってとにかく、分かりやすく伝える文章。だから凝った文体コスプレみたいなものは、いまだに苦手で。翻訳小説が好きなのも、そのあたりの影響かもしれません。最初に買ってもらった絵本も谷川俊太郎さん訳の『スイミー』ですから。それも翻訳ものだったわけだし。
――そうそう、翻訳小説がお好きですよね。作品の中にポール・オースターとか出てくるし。
川村 オースターはすごく好きですね。ダントツは『幽霊たち』。去年『血界戦線』というテレビシリーズアニメを作ったんですけれど、『幽霊たち』をベースに脚本を作りました。メインキャラクターの双子が、ブルックリンのオレンジストリートに住んでいて、名前はブラックとホワイトっていうんです。海外文学でいうと、ラッタウット・ラープチャルーンサップの『観光』とか。最近はイアン・マキューアンの『未成年』が面白かった。海外作家は、たとえばミランダ・ジュライのような人が出てくるとすごく嬉しくなりますね。あの人も映画を作るし、まだまだ僕にも何かやれることがあるんだなって思わせてくれます。翻訳されたリズムが好きなんですよね。
――岸本佐知子さんの訳ですものね。川村さんはよく書店パトロールをしていて、映画になりそうな原作をたくさん読んでいるともうかがいましたが。
川村 映画の原作という意味では、新人作家のものを読んでいます。やっぱりデビュー作って面白い。だからもう、最近は新人ばかり読んでいて。最近映像化が決まった作品もあります。言いたいけどまだ言えない(笑)。
――本も好きだけれども、進みたかったのは映画の道なんですか。
川村 映画は、なんでもある家みたいなものだと思います。文芸もあってアートもあって音楽もあって、ファッションもある。どれも好きなので。だから結局、『四月になれば彼女は』でも、どういう服を着てどういう音楽が鳴ってて、どういうロケーションと美術でというのを描写するのが楽しかった。「面倒くさがらずにもっと描写したら」と言ってくれた吉田さんに感謝しています。きっと僕が、面倒がっているのがバレてたんでしょうね。でも吉田さんのおかげで普段映画でやっていることを、小説でもやってみればいいのかと気づきましたし、それがすごく面白いんだと発見することができました。