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男性からの恨み節も

 一見成功したように見えるこれらの政策だが、落とし穴がある。女性の社会的地位が劣悪であることも事実なのだが、過酷な競争社会に加えて深刻な経済の低迷に直面する韓国の若い男性も楽な状況ではないのだ。

 最悪の就職難と一寸先も見えない不安な将来のために、「N放世代」とも呼ばれる人生の多くを諦めなければいけない韓国の20代男性たちの立場から見れば、文在寅政権の女性政策は「逆差別」と受け止められている。

 たとえば、職員採用において、女性に加算点を与える公共機関がある一方、2年間の兵役の義務を果たした男性に対する加算点は全て廃止された。警察や軍人など体力試験が必要な職種の採用の場合は、男女別に異なる基準で評価をし、合格者の男女比率を調節する。他にも、女性専用賃貸住宅、女性専用創業支援など、女性に対する福祉恩恵が同じ条件の男性に比べて遥かに多い。

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就任パレードで沿道に手を振る文在寅大統領(2017年5月)©︎AFLO

 そして、これらの性平等実現を最優先目標とする「性認知事業」に投入される2020年の国家予算に約32兆ウォンを割り当てた。これは、雇用予算の約26兆ウォン、政府の開発研究(R&D)予算の約24兆ウォン、インフラなどの社会間接資本(SOC)予算の約22兆ウォンよりはるかに多い。約60万人の兵士を養い、最先端武器を購入する国防部の総予算が50兆ウォンであることを勘案しても、決して少なくない予算だ。

あまりに過酷な競争社会での「本当の問題」

 20代男性の“剥奪感”を、文在寅政権の関係者らが単なる「劣爆(劣等感による怒り)」と受け入れているのも状況の悪化に拍車をかけている。

金敬哲氏 ©文藝春秋

 20代の男性の政権支持率が低迷した理由について、与党「共に民主党」の薛勳(ソル・フン)最高委員は、「(20代の男性たちが)まともな教育を受けることができなかったからだ」と暴言を吐いた。

 親・文在寅グループの核心ともいわれ、進歩系の有力な次期大統領選候補の一人である柳時敏(ユ・シミン)氏は、「男性は軍隊、サッカー、ゲームで時間を奪われ、勉強のできる女性に対して嫉妬しているだけ」と、ジェンダー対立を男性たちの一方的な劣等感だと一蹴した。

 本当の問題は、あまりに過酷な競争社会の中で、男女の区別なく誰もが苦しみにあえいでいる状況が、何も解決されていないことだ。文在寅政権は所得主導の成長と親「労働者」的な経済政策によって問題の解決を図った。だが、低成長と急速な高齢化に悩まされている実情を勘案しなかったために、いまや韓国経済を深刻に萎縮させている。

 昨年の韓国経済成長率は、史上初めて1%台を記録する可能性が高いともみなされている。全体のパイを増やすことができないため、片側が持っているパイを奪って他の方に分けることこそが、現・文在寅政府の経済政策の実態なのだ。