2016年10月に出版された当初、この本はそれほど大きく注目されなかった。しかし、進歩政党の正義党の故・魯会燦(ノ・フェチャン)議員が2017年5月、大統領に当選した文在寅氏にこの本をプレゼントしたことを機に一気に有名となった。
続いて2018年、韓国法曹界のセクハラを暴露して韓国社会の「#MeToo」運動の火付け役となった女性、徐志賢(ソ・ジヒョン)検事が、自分の被害事実を告白するSNSの書き込みでこの本に言及し、本書は韓国のフェミニストたちのバイブルとなった。
この『82年生まれ、キム・ジヨン』にも描かれたように、長い儒教の伝統が残っている韓国社会では男性に比べて女性の社会的地位は劣悪である。女性と児童・青少年問題を扱う行政機関である女性家族部が発表した「統計で見る女性の暮らし・2019」を見ると、韓国女性の賃金水準は男性の約69%。非正規社員の割合も女性は41.5%で、男性(26.3%)より15.2ポイントも高い。他にも、上場企業の女性役員の割合はわずか4.0%で、約68%の企業で女性役員が一人もいない。
女性政策担当の省庁に年1兆ウォン投入
文大統領は、大統領選挙候補時代から「男女平等な韓国」という女性向けの政策を10大主要公約の一つとして提案していた。具体的には、女性政策機構の強化、女性の雇用差別解消、公企業と準政府機関の女性管理者比率の拡大、ジェンダー暴力の根絶などだ(ジェンダー暴力とは、性暴力はもちろん、性差別やセクハラなどを含めた広範囲に至る「性を媒介した加害行為」のことである)。
この一連の女性関連公約は、政権初期から地道に履行され、韓国の女性たちから大きな支持を得ている。
例えば、これまで名前だけのミニ省庁と認識されていた「女性家族部」の組織と予算を大幅に強化し、年1兆ウォン(約1000億円)以上の予算を投入する主要省庁に再編した。大統領直属で「性平等委員会」を発足させ、小学校をはじめとするすべての学校で性平等教育の実施を義務付けるなど、女性の人権と両性平等に対する社会教育を強化している。
男女間の社会格差解消と女性の社会進出のための各種の女性支援政策も施行されている。民間企業には「女性管理者採用目標制」、公共機関には「女性公務員任用目標制」、女性科学技術人材と国公立大学には「女性職員割当制」、政党には「女性政治割当制」などを導入している。