最大のタブー「上納金」に捜査のメスが
暴排条例が全国で施行される先駆けとなったのは、福岡県だった。山口組が分裂して神戸山口組が結成されたのと同様に、福岡県内では2006年、指定暴力団道仁会で内部対立が起きて一部のグループが離脱し九州誠道会(現・浪川会)を結成。対立の構図が鮮明となった。
その後は福岡、佐賀、長崎、熊本の九州4県で対立抗争事件が相次ぎ双方の幹部が銃撃されるなど40件以上の事件が発生、14人が死亡した。相次ぐ事件の過程で、2007年には佐賀県の病院で一般市民が九州誠道会の関係者と間違われて射殺されてしまう許しがたい事件も発生した。
九州北部では一般市民をも巻き込んだ発砲事件が相次いだため暴力団排除の住民運動が盛り上がり、福岡県で2010年4月、暴排条例が全国に先駆けて施行された。
暴力団排除の決め手として大きな期待が寄せられた暴排条例だったが、当初は暴力団側の強い反発が一般市民へと向けられ、被害は大きかった。北九州市を中心に九州北部に広く勢力を持つ指定暴力団工藤会構成員らによって、用心棒代などの支払いを拒否した飲食店経営者らへの襲撃事件が続発。一般市民へも容赦なく暴力の牙をむく凶暴さがむき出しになった。
繁華街のスナック経営の女性を切りつける傷害事件や店舗の放火事件、さらに多くの飲食店には「次はお前だ」などと脅迫電話が相次いだ。福岡県公安委員会などは工藤会について、用心棒代などを要求すれば、中止命令を経ずに直ちに逮捕できる「特定危険指定暴力団」に指定。現在も指定は延長されている。
工藤会については、元漁協組合長射殺(1998年)、建設会社会長射殺(2011年)、福岡県警元捜査員銃撃(12年)など、数々の凶悪事件を引き起こしたとして、総裁の野村悟らが相次いで逮捕された。捜査の過程で、上納金をめぐって野村の脱税も発覚。約3憶2000万円を脱税していたとして、所得税法違反(脱税)容疑でも逮捕された。
暴力団最大のタブーとも言うべき上納金(会費)について、暴力団トップに捜査のメスが入ったのは異例中の異例だった。