読者に大人気、雪哉は『玉依姫』で黒焦げになるモブのはずだった!?
――史上最年少の20歳で松本清張賞を受賞、デビュー作となった『烏に単は似合わない』を女性たちの話にしたのも、女子校を卒業したばかりの自分に近いところから書こうと思った、と前に話していましたよね。
阿部 武器になると思ったんですよね。応募したら自分よりもはるかにキャリアがある人たちが競争相手になりますから、自分が対抗していく時に、選考委員から見て何が一番魅力的に見えるかを考えました。それで、10代の女の子を描いたほうが、他の人には書けないものが書けるだろうという計算が働きました。処女作は人生にひとつしかないし、自分の名刺代わりになるものなので、「私はこういうものを書こうと思っています」と分かるものにもしようと思いました。それが面白いと思ってくれた人はついてきてくれるし、合わないと思った人はたぶんその後も合わないだろう、という読み手の判断基準にもなりますし。
――冷静ですねえ。しかも第2巻の『烏は主を選ばない』が第1巻と同時期の話なので、読むと呼応している部分がありますよね。第1巻でこういうことが起きたのは、実はこういうことでした、という。そこまで計算して書いていたところがすごい。
阿部 でもいつ打ち切りになるか分からなかったので、どれも密接に絡みつきすぎず、単体で読めることを意識して書いたのが1作、2作です。
――その2作目で、若宮に仕えることになった少年、雪哉が登場して、読者の間で大変な人気者になりましたね。
阿部 なりましたねー。実はこいつは『玉依姫』で黒焦げになるモブ(群衆の一人)のつもりだったんです。でも雪哉という名前が気に入っちゃって。こいつはモブじゃなくて、主役はれるやつなのでは? と思えてきたんです。
明留が私のところに「僕、学校辞めたいです」と言ってきて……
――第3弾で『黄金の烏』を持ってきて、烏と大猿との闘いを描いたのは、どういう狙いでした?
阿部 2巻までがプロローグで、そこから起承転結を考えたんです。でも3巻を書いている途中で「来年は違う話を」と言われたので、「おっとー」となって。もし打ち切りになっても最低限面白かったと言ってもらえるように、ギリギリの線を狙ってこれを書いたんですよね。だから初音と小梅という登場人物など、この巻単体の物語とテーマを盛り込んで、物語としては一応一段落するようには考えたんですよね。
――そして第4弾『空棺の烏』は少年たちの学園もの。
阿部 これが一番、キャラクターたちが言うことをきかない巻でした。明留は本来、もうちょっとコンプレックスを溜めこんで不穏分子になる予定だったんですよ。それが、途中で本人が私のところに「僕、学校辞めたいです」って。「マジかお前、もうちょっと頑張ってみないか?」と言ったんですけれど「僕は辞めます」って。それで結局彼は辞めて、今のいい位置におさまっています。
――作者と登場人物が脳内会議するなんて面白い(笑)。
阿部智里(あべ・ちさと)
1991年群馬県生まれ。2012年早稲田大学文化構想学部在学中、史上最年少の二十歳で松本清張賞を受賞。デビュー作『烏の単は似合わない』以来『烏は主を選ばない』『黄金の烏』『空棺の烏』『玉依姫』を毎年一冊ずつ刊行し、「八咫烏シリーズ」は累計85万部を越える。シリーズ外伝を「オール讀物」で発表中。現在、早稲田大学大学院文学研究科で学びながら執筆活動を行っている。
八咫烏シリーズ特設サイト
http://books.bunshun.jp/sp/karasu
八咫烏シリーズ公式twitter
https://twitter.com/yatagarasu_abc
「弥栄の烏」最新動画
https://www.youtube.com/watch?v=rBc77NeYqJE
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※「新刊が出るたび、既刊の意味が変わり、読み返すと新しい発見がある。そういうものを書いている───阿部智里(後篇)」に続く