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イライラしてもまかせることで、上司として開眼

忍足 池上さんが自分の上司としてのスタイルを意識されたのは、いつ頃ですか?

池上 私はNHKに就職したとき、管理職にはなるまいと心に誓っていたんですよ。生涯、一記者を貫こうと。でも、社会部で文部省記者クラブのキャップになった30代半ば、初めて部下を持った。そのときですね。本当は自分で全部やったほうが早いのだけれど、「こいつをどう育てなきゃいけないか」と考えたわけです。そういえば、少し上の先輩が地方局のデスクになったとき、上司に言われた言葉を今でも覚えています。 「おまえの一番の仕事は自分でやらないことだ。イライラしても部下にまかせろ」

忍足 僕は人にまかせるの、大好きです。自分でやるのは面倒くさいから(笑)。

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池上 人にまかせるのがいかに大変か、首都圏ニュースのデスクになったときに思い知りましたね。まったくの新人が配属されて、テレビ画面に出すタイトルやテロップの作り方も知らないわけです。「ああやれ、こうやれ」と全部指示していたら、ミスが続出するんですよ。それであるとき、ふと気づいた。すべて指示するから、主体性がなくミスが起きるのだと。ぐっと我慢して「おまえ、タイトル、自分で考えてみろ」と、考えさせて直すやり方にしたとたん、ぐっとミスが減った。

忍足 うーん、なるほど。

池上 8時45分に始まるニュースで、8時半になってもまだテロップができていなくて、もう最後の最後で「えーい、こうだ」とやってしまったことはあります。でも、基本、イライラしながら待たないと人は育たない。

忍足謙朗さん。実行力と人柄で伝説のリーダーとしてテレビ番組でも話題を呼んだ。©杉山秀樹/文藝春秋

忍足 僕が鍛えられたのは、若い頃、自分よりずっと年上のローカルスタッフたちに指示を出さなければならなかったときかな。こっちのほうが新米なのに、一応、国連のインターナショナルスタッフだから、上司ということになるんです。

池上 それはツラいですよね。 あと、部下を叱るときも、仕事の仕方を批判するのはいいけれど、人間性を批判してはいけない。「おまえは能力がないから、仕事ができないんだ」というようなことを言ってはいけない。

忍足 そして、絶対、人前で注意しない。

池上 そうそう、それは大原則ですね。褒めるのは皆の前で、注意するのは1対1で。しかも、「それはダメだ」じゃなくて、「こういうほうがいいよ」とポジティブに言わないと。

忍足 そういう日本的な、他人をリスペクトするところはいいですよね。人にもよるけれど、外国人相手だと、率直に言わないと通じないこともある。

池上 そう、「忖度」って言葉は英語に訳せないそうですからね。外国人記者クラブで森友学園の理事長が会見を開いたときも、「sontaku」とそのまま使ったらしいです。