自分のチームに入れたい人材リストとは
池上 いけない、ついリーダー論から話がそれてしまいました。忍足さんはWFPで主に緊急支援や人道支援を担当していらしたんですよね。国連では開発支援も大きな仕事ですが。
忍足 キャリアの最初の頃はアフリカで開発支援に携わっていたのですが、デスクワークが多くなかなか現場に出る機会がなかったので、志願して、1992年にボスニア紛争の最中に飛び込んだのです。
池上 銃弾の飛び交う紛争地で食糧支援をされたわけだ。けっこう型破りな方法も辞せずというリーダーでいらしたようですね。
忍足 WFPという組織は、困っている人たちに食糧を届けなければ話にならないわけで、飛行機やヘリ、船やトラックを使って支援物資を運ぶロジスティックスも担当しています。「トラック野郎」というか、ちょっと荒っぽい連中も必要な組織なんですよね。個性的な人が多いんです。
池上 国連の中ではマッスル系なんだな。
忍足 そうですね。紛争地だったり、自然災害に襲われた地域で朝から晩まで一緒に過ごすわけですから、一種のファミリーのような連帯感も生まれやすい。常に緊急事態に対処しなければならないので、ボスとしては、ばんばん決断していくことも必要です。
池上 決断の根拠となるのは何ですか?
忍足 まあ、経験からの勘と、とにかく自分の目で現場を見ることですかね。現場を知るスタッフの意見もよく聞きます。
池上 ロールモデルとなるような上司もいらっしゃいましたか?
忍足 数少ないけれど、いましたね。国連でも上ばっかり見ている上司って多いんですよ。そんな中で、本当に現場を大切にして、われわれのために事務局長と戦ってくれるジャン=ジャックというボスがいて、彼のことは尊敬していました。また、コソボ紛争の時に知り合ったミックという男はイギリスの特殊部隊の出身で、僕は彼から「何が何でも仲間を助ける」という軍隊的な信念を教わりましたね。
池上 多国籍の現場で、ボスがそういう信念をもっているかどうかは大事でしょうね。そんな上司でないと、下はついてこないですよ。上ばっかり見ていてはダメ。私が働いていたNHKでも、現場にいた若い頃は優秀だったけれどもボスになったら全然ダメな人と、現場ではさほどでもなかったのに、上に立ったらすごくいいという人物がいましたね。
忍足 同僚や部下を大事にして、上には反発したりするので、嫌われることもありますけれどね。でも、下がついてきているから、上の人間が怖がるところもある。
池上 上から見れば「どっち見て仕事しているんだ。俺のほうを見ろ」ということでしょうね。でも、現場が明るく楽しく仕事できればいいんですよ。楽しければ、結果的にいい仕事ができるし。
忍足 そう、そのとおりなんです。そうでなければ、スーダンみたいなところでやっていられないですよ。 赴任してスーダン全土にあるローカルオフィスを全て回ったのですが、僕の仕事はとにかくスタッフを励ますこと。そこのリーダーに「あなたの一番大事な仕事は、ハッピーなチームを作ることだからね」と必ず言っていました。 なぜかというと、ハッピーなチームであれば、想定外の緊急事態が起きたときも何とか対処できるけれど、ハッピーでないチームは毎日のルーティンワークさえ、うまくいかないことが多い。
池上 私は「週刊こどもニュース」の現場が一番、楽しかったですね。「池上さんは若いディレクターに甘い」と言われたこともあるけれど、やりたいことがある人には、どうしたら、それがうまくいくか、できるだけ助けたい。それぞれの思いを実現させてあげたいという気持ちがあったんです。
忍足 僕は自分がそれほどアイデアの豊富な人間じゃないと自覚しているので、チームのメンバーに入れたいのは、ちょっと突拍子もないことを考えるようなタイプなんです。
池上 本の中で「自分のチームに入れたいと思う人材」のリストを挙げていらっしゃいましたね。 「当たり前じゃない(突拍子もない)アイデアを出せる人」とあります。「仲間や部下に対して思いやりを見せられる人」「その人がいるとチームが明るくなる人」。そう、大事ですよねぇ。その人がいるとチームが暗くなるというのは、時々あるから(笑)。
忍足 他にも何項目かあるんですが、これがそのまま僕のリーダーシップ論ってことになりますね。スタッフを採用するインタビューのときも、履歴書や最終学歴より、こうした視点で見ていることが多い。
池上 組織の面接試験でも、最終的には「こいつと一緒に働きたいか」で選びますよね。いくら能力があって優秀でも、一緒に働きたくない奴は選ばない。