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大量寄港は日中双方が歓迎したが……

 中国のクルーズ客は、早朝に博多港に上陸後、福岡市内にバスで繰り出す。夕刻には出航しなければならないため、上陸時間は長く見積もって8時間。その間、訪れる場所は、太宰府天満宮と福岡タワー、ショッピング施設のキャナルシティ博多が定番だ。大型客船だけに、1隻2000人以上の乗客がいるため、1日2隻寄港する日は、100台以上のバスが福岡市内を駆け回ることになる。

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 これだけクルーズ客が増えたもうひとつの理由は、受け入れを歓迎する日本側の施策にある。2015年1月の入国管理法の改正によって外航クルーズ船による外国人観光客の入国審査を簡素化する船舶観光上陸許可制度を進めたことだ。これにともない、中国人観光客の免税手続きの際に必要な旅券に代わるものとして「船舶観光上陸許可書」が認められることになった。日本側は中国客の「爆買い」を期待しての措置だったわけだが、中国側もそれを歓迎し、大量寄港につながったのである。このこと自体は、国際親善の観点からみて誰にも責められないことだと思う。

 ところが、話がそれで終わらないところが、日本のインバウンドのリアルな現状というべきか。読売新聞「クルーズ船訪日客 失踪相次ぐ 福岡・長崎」(2016年9月26日)は、以下のように報じている。

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クルーズ船を利用して密入国を狙うケースも

 観光目的のクルーズ船で入国した外国人が船に戻らずに失踪するケースが、福岡、長崎両県で2016年1月から今年8月末までに計34人に上ったことが両県警の調べでわかった。クルーズ船に対応するための簡略化された入国手続きを悪用、不法残留しようとした外国人もみられ、関係機関は警戒を強めている。

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 同記事によると、34人の内訳は「中国人31人、ネパール人2人、フィリピン人1人」。クルーズ客船には通常は乗務員として1隻平均約1000人の外国人クルーが働いており、中国人以外の失踪者は乗務員と考えられる。2016年にクルーズ客船で日本に入国した外国人は約200万人だったが、その半分以上は博多港からの上陸者であったことから、31人という数をどう考えるかは意見が分かれるかもしれない。

 その後、11月になって一部のクルーズ客失踪者が兵庫県の山あいのキノコ園で不法就労していて逮捕された。これは、言うまでもなく、クルーズ市場の制度の裏をついた密入国である。興味深いのは、不法就労する彼らが船上でスマートフォンを手に中国版SNSのウィチャット(WeChat)で日本国内のブローカーたちと連絡を取っていたことだ。不法就労が多発した1990年代とは、通信事情という面でも隔世の感がある。それが可能となるのは、在日中国人という受け皿があるからだ。