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「どんどん仕事をチェンジして、生き残るのが武士の本分」戦国時代に学ぶ“日本人の仕事観”とは?――出口治明×呉座勇一歴史対談

中世はビジネスチャンスの宝庫だった!

出口 中世には、ビジネスのヒントも山ほど転がっていますよね。僕は、若い人によく、「上司が気に食わなければ『御所巻き』をやればいい」と話すのです。上司を連れてみんなで飲みに行って、その場で吊るし上げにしてしまえ、と。御所巻きの伝統を知っていれば、「よし、いっちょ意見を言ってやるか」という発想も出てくる。ビジネスチャンスはこうした自由闊達な議論から生まれるものです。

呉座 そういうことを知らないと、「日本は武士道の国だから、上司に逆らってはいけない」という話になってしまいます。

呉座勇一氏 ©文藝春秋

「七度主君を変えねば武士とはいえぬ」

出口 「武士道」もビジネスマンに誤解されがちな言葉ですよね。

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呉座 そうなんです。日本は転職率が低いといわれますが、その背景には、「武士道は『二君に仕えず』だから終身雇用で」という思い込みもあるのではないでしょうか。

出口 戦国時代の武士に忠義などまるでないですよね。それどころか、「どんどん仕事をチェンジして、生き残るのが武士の本分」と考えていた。僕の育った伊賀市は、江戸時代には伊賀上野藩でした。これは津市にあった藤堂藩の支藩です。藩祖の藤堂高虎のことを調べてみると、「七度主君を変えねば武士とはいえぬ」と述べているのです。明治以降に流布した「武士道」は、新渡戸稲造が提唱したことで広まったものですよね。

呉座 そうですね。新渡戸はクリスチャンですから、キリスト教的な価値観も反映されています。ところが、実際に戦国を生き抜いた高虎は、浅井長政、豊臣秀吉、徳川家康と次々と主君を変え、「転職」しまくっています。ステレオタイプな「武士道」に縛られるのは間違いです。

出典:「文藝春秋」4月号

「文藝春秋」4月号に掲載の「『なぜ?』を問わない歴史教育の愚」では、日本中世の魅力以外にも、学校教育における歴史の授業の問題点や、「史実」と「物語」を混同した「歴史小説」の読み方の是非について語り合っている。

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「どんどん仕事をチェンジして、生き残るのが武士の本分」戦国時代に学ぶ“日本人の仕事観”とは?――出口治明×呉座勇一歴史対談

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