孫悟空といえば、『西遊記』『西遊記II』の堺正章でもなく、『ドラゴンボール』でもなく、『飛べ!孫悟空』の“そんごくう”だった。

 ジャンケンをする時は、必ず“最初はグー”と掛け声を掛け合った。

 カラスの鳴き声が聞こえれば、すかさず“♪カ~ラス~なぜ鳴くの~カラスの勝手でしょ~♪”と歌った。

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 クラスのお楽しみ会では模造紙で作ったヒゲを鼻の下に貼り付けて“ヒゲダンス”を踊った。

 母親がスイカを切ってテーブルに並べれば、“早食い”にチャレンジした。

志村けんさん

息子の歯磨きで「もっと“アイーン”して」

『オレたちひょうきん族』や『夕やけニャンニャン』に傾いたこともあったが、どこかで『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』『志村けんのだいじょうぶだぁ』がしっくりくるなと思っていた。

 そして“変なおじさん”というアレなキャラクターをお茶の間のアイドルにしてしまったことに「やっぱ、志村ってスゲエな!」と感嘆すると共に、他の番組に浮気したり、一時とはいえ彼の存在を軽んじてしまったことを恥じた。

 2018年に息子が生まれてからは、“だっふんだぁ”に“だいじょうぶだぁ”と叫んで笑わせ、“♪ニンニキニキニキニシンが悟空♪”と『飛べ!孫悟空』の挿入歌「ゴーウェスト」を歌って聴かせてなだめ、歯磨きをする際は「もっと“アイーン”して」と磨きやすいように顎を突き出させている。そんな具合にいろいろと思い返し、考えてみると、昔も今もずっと“志村”がいる。

©文藝春秋

 テレビで彼を見ることがなくとも、志村はどこかに存在するのである。だからこそ、たまらなく悲しい。だからこそ、いつまでもジワ~ッと涙が出てきて止まらない。あれから数日が経ったが、悲しみは増していく一方だ。俺と同じ40代後半ならば、誰もが志村という名の魂みたいなものを抱えているはず。体が引きちぎられたような、自分のどこかが死んでしまった感覚に陥るのも当然といえば当然なのだ。