(2)なぜ専門家会議は感染爆発の可能性を報告しなかったのか
それから1週間、筆者はすでに東京は感染爆発の初期に入っており、これからまさに爆発的に感染者の増加が起きるフェーズだと考えている。専門家会議の数理モデル分析担当の西浦博・北海道大学教授は、4月3日の新聞紙上で「現在の東京都は爆発的で指数関数的な増殖期に入った可能性がある」と述べている。専門家会議は4月1日の段階で西浦教授が4月3日に公表したデータは知っていたはずである。そこでは、ロックダウンを含めた強力な施策(今より80%程度の接触減)を実施しなければ、爆発的な感染者の増加を防ぐことができないことが示されている。
それにもかかわらず、4月1日の専門家会議の会見では、なぜかそのデータが示されずに、強力な施策を打つ最後の機会を逃してしまった。どこかからの圧力があったのかもしれない。尾身座長は4月3日のテレビ番組でも、「(日本は)武漢やヨーロッパのようなロックダウンや封鎖はいらない」「大事なのは行動変容」「行動制限して感染者が減少したら、またクラスターをやる」という、今の路線を継続することを強調した。その後、4月5日になって、専門家会議メンバーが「ロックダウンの提案を政策決定者に伝えたが、大恐慌になるので却下された」とツイッターで明かしている。つまり、命と経済との選択において、後者が優先されたと言えよう。
専門家会議はその位置付けが極めて不明瞭だ。それゆえ、科学的知見と政治的決断が独立していない。専門家の役割は、「サイエンスとして何が分かっており、何が分かっていないのか」「どういう対策をとればどのくらいの効果があるのか」などをきちんと政策決定者と国民に伝えるのが役割だ。政治家はそれをもとに、例えば、ロックダウンするのか、しないのか、という政治判断を下す。
なぜ、専門家会議のメンバーの中に、4月1日の段階で東京がすでに感染爆発に入っていることを示すデータを出そうと主張する人はいなかったのだろうか。なぜ専門家会議に辞表を叩きつけてでも自分の意見を言うメンバーはいなかったのだろうか。もう手遅れでどのような事態が待っているのか知っているのならば、なぜ身を挺して真実を明かさなかったのだろう。専門家としての役割を放棄し政治的判断に身を任せることは、日本では大人の対応と呼ばれるかもしれないが、国際的にはサイエンスに対する裏切りという評価を受ける。