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 ユニクロはどこで買ってもユニクロなのに、銀座で買ったのよという独りよがりな誇りがあるっていう。そして、「じゃないほうの松屋」。私は松屋というと銀座の商業施設なんだけど、子供は牛丼っていう。あるあるですね。

又吉 松屋に入ってるレストラン、上野精養軒はたまに行きます。ハヤシライスがめっちゃ好きで。

 へえ~!

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又吉 昔、上京したときに上野の精養軒へ、夏目漱石や太宰治の小説によく出てくるから行ってみたんですが、店構えが立派すぎて入れなくて(笑)。で、松屋にもあると知って行くようになりました。

言葉選びの工夫で動きを出す

 ということを、又吉さんが思い出してくれただけでヨシとしましょう(笑)。じゃあ、これは? 「はいばらが読めない」

又吉 あれですよね、「ば」が昔の難しい仮名文字になってる……。

 はいばらは和紙の老舗で、お蕎麦屋さんの看板によくある「そば」の「ば」と同じ文字で……。

せきしろ あ、ああ……。

 いまひとつか(笑)。じゃんじゃんいきます。「和光を知らないタクシーに乗った」。実話です。銀座のど真ん中の商業施設を知らない運転手だったという(笑)。これも「和光を知らないタクシー」で止めるべきなのかどうか。先生、どうすればいいでしょう?

(c)Atsushi Hashimoto

せきしろ ……ん、先生? 僕ですか(笑)。僕は、たまたまそういうタクシーに乗ってしまいました、という感じにするのが好きなので、「乗った」としますね。

又吉 「和光を知らないタクシー」で止めると、運転手に行き先をつげた瞬間という感じがしますけど、「乗った」だと、そのまま出発してしまった、さあどうする、という情景が浮かんできますよね。

 そっか、動きが出てくるわけね。じゃあ「乗った」が正解(笑)。最後は、「和光を『服部時計店』と言う」。せきしろさんが言う「上品なおばあさん」たちって、和光のことを「服部さん」とおっしゃる。その昔、和光は服部時計店というお店だったから。

せきしろ&又吉 へえ~!

 それにしても言葉って、こうやって遊ぶと楽しいよね。永遠に遊べるなあ。お金もかからないしね(笑)。

又吉 あ、銀座でもう一句できました。「中尾彬さんではなかった」

 いい感じにオチました(笑)。

(c)Atsushi Hashimoto

text:Izumi Karashima
photographs:Atsushi Hashimoto

せきしろ/1970年北海道生まれ。文筆家。主な著書に『去年ルノアールで』 『たとえる技術』『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』 『バスは北を進む』などがある。ドラマや舞台の構成や脚本も手がけている。

またよしなおき/1980年大阪府生まれ。お笑い芸人であり作家。 主な著書に芥川賞を受賞した『火花』や『人間』など。売れない劇作家の切ない ラブストーリーを描いた『劇場』が山﨑賢人主演で映画化。4月17日全国公開予定。

たわらまち/1962年大阪府生まれ。歌人。早稲田大学第一文学部在学中に 佐佐木幸綱氏の影響で短歌を始める。87年に第一歌集『サラダ記念日』を出版、 大ベストセラーに。歌集や歌書、エッセイ集など著書多数。

蕎麦湯が来ない

せきしろ ,又吉直樹

マガジンハウス

2020年3月12日 発売