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貯水タンクから見つかった妊婦の腐乱死体……人々が「水場」に恐怖を感じすぎるのはなぜか

“オカルト探偵“吉田悠軌が紐解く“都市風景と怪談” 給水タンク・給水塔

2020/05/30

 怪談は「水場」に多く発生する。川や池、沼、湧水地などには、昔から不思議な話が伝えられているものだ。

 都市が発展するにつれ、池は埋め立てられ川は暗渠化されていくが、それでも事情は変わらない。むしろ逆算的に「怪談の現場を調べてみたら、実は暗渠に面していた」と判明する事例は、数えきれないほどあるのだ(例えば拙著『怪談現場 東京23区』『怪談現場 東海道中』(イカロス出版)は、過去の水場と怪談の関係性についての本なので、ご一読いただけると幸いだ)。

 それはおそらく「水場」こそが、共同体の生活にとって最重要のものだからだ。大切な「水場」に対して、人々は無意識のうちに霊性を感じ、時には恐怖心を抱く。

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※写真はイメージです ©iStock

 だから「給水タンク」「給水塔」にまつわる怪談も、けっして珍しくはない。それが自然の場所ではなく人工設備であっても、飲料水や生活用水というセンシティブな面に関わることに違いはないからだ。

貯水槽から発見された腐乱死体

 1977年、埼玉県・秩父にて、防火用貯水槽の中から腐乱死体が見つかった。死後かなり腐敗が進んでおり、当初は「セーターを着た妊娠中の若い女性」ということしかわからなかった。ただし捜査の進展は早く、女性は2年前、交際相手の男性に殺害・遺棄されたものと判明し、犯人はすぐに逮捕された。

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 しかしこの事件は、また別の面でも騒がれていた。同地では、死体の発見以前から、「セーターを着て、顔の崩れた女幽霊」の目撃譚があいついでいたのだ。さらに付近では「オバケガデル」と書かれた石が何度も目撃されていたという。これはもしや、被害者の霊が自分の居場所を伝えていたのではないか……と新聞・雑誌も大きく報道した、日本でもっとも有名な心霊事件の一つである。

 2013年、ロサンゼルスで起きた事件を知る人も多いだろう。同地に古くからある「セシル・ホテル」にて、女性宿泊客が失踪。エレベーターで奇妙な行動をとる彼女の映像が公開されたことから、インターネットでは恐ろしげな怪奇事件として注目を集める。

 そして女性は失踪から19日後、ホテル屋上の貯水タンクにて、溺死した姿で発見された。その死には不明点が多く、セシル・ホテル自体にも陰惨な歴史がまつわっていることもあり、現在でも様々な怪談めいた検証がなされている。