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貯水タンクから見つかった妊婦の腐乱死体……人々が「水場」に恐怖を感じすぎるのはなぜか

“オカルト探偵“吉田悠軌が紐解く“都市風景と怪談” 給水タンク・給水塔

2020/05/30

「地下に毒ガス兵器が埋まっているのでは」

 また『団地の給水塔大図鑑』(シカク出版)著者の小山祐之氏からも、興味深い指摘をいただいた。このあたりは化学兵器の研究開発を行った「第六陸軍技術研究所」の跡地なので、怪談話があるとすればそこに由来するのでは……という情報だ。

 確かに、旧日本軍の毒ガス遺棄は、そこに住む人々にとってナイーブな問題だ。国外では旧満州にあたる吉林省ハルバ嶺、国内では広島・大久野島が有名だが、その他の地域でも、埋没していた毒ガス類が見つかった事例が幾つかある。

 化学兵器開発を専門とした第六陸軍技術研究所の跡地となれば、団地住民が色々と気にしたのは当然だろう。例えば1971年、同地での都立衛生研究所(現・東京都健康安全研究センター)の増設工事中、地下から白煙がのぼり「遺棄された毒ガスか」と大騒ぎになったこともある(実際は都市ガスが漏れただけだった)。しかも例の給水搭は井戸水を汲み上げるシステムなのだから、その土壌については心配もひとしおだったはずだ。

 こうした問題を受け、日本中で大規模な調査が展開された。1973年「旧軍毒ガス弾等の全国調査」および2003年の再調査である。2003年については、百人町三丁目の16ヶ所にて地下水を重点調査。結果として、毒ガス兵器などは発見されず、地下水にもその影響は見られない、ということで決着している。

 しかし逆に言えば、当団地には2003年まで「地下に毒ガス兵器が埋まっているのでは」という漠然とした恐怖心が抱え込まれていたことになる。そうしたイメージが、二つの給水塔を不気味な心霊スポットとして見せることに、一役買っていたのではないか。

※写真はイメージです ©iStock

「水場」を侵される恐怖は、どうしても人々の深層心理から拭いきれないものだ。自分たちの水に「死体」や「毒ガス」が混じっているのではないか……。そんな想像によって、給水タンクや給水塔は時おり、怪談的な風景へと変貌する。

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